水素はクリーンエネルギーという大きな勘違い

水素をエネルギー源として活用する水素社会の実現に向けた取り組みが熱を帯びている。昨年6月に閣議決定した安倍政権の成長戦略である「日本再興戦略」において、水素で走る燃料電池自動車(FCV)や水素インフラに係る規制を見直すとともに、「水素ステーションの整備を支援することにより世界最速(でFCV)の普及を目指す」と明記された。

今年6月には経済産業省が水素社会実現に向けた行程表(ロードマップ)を取りまとめている。FCVや家庭用燃料電池(エネファーム)の具体的な普及目標を設定し、2030年には水素発電所の実用化も目指すという。

同月に政府が閣議決定した「『日本再興戦略』改訂2014」でも、「水素社会の実現に向けたロードマップの着実な実行とフォローアップ」が謳われて、FCVの購入者に1台当たり200万~300万円の補助金を出す支援策も決まった。トヨタが本年度中にFCVを市販するとか、JX日鉱日石エネルギーが18年度を目途に水素ステーションを100カ所設置するとか、安倍政権の成長戦略を追い風に関連業界も盛り上がりをみせている。

しかし、「水素」を社会インフラとして活用するのは、簡単な話ではない。そもそも水素=クリーンエネルギーという考え方からして大きな勘違いである。確かに水素を燃やしても生成されるのは水(H2O)だけで、温室効果ガスの主原因となるCO2は出てこない。しかし、水素は単体では自然界に存在しないから、人為的に作り出すしかない。その生成過程で大量のCO2が発生してしまうのだ。

水素の作り方は主に3つしかない。1つは理科の実験でもやった水の電気分解だ。電気分解で水から水素を取り出すためには、大量の電力が必要になる。原発が稼働していたときは、安価な夜間電力を利用して電気分解で水素を作ろうとしていた。

当時の電力コストはキロワットアワー当たり8円程度。ガソリン車に十分対抗できるレベルだったから、「燃料電池車は安く走れる」とアピールできた。しかし原発が止まって安価な夜間電力が使えなくなったら、電気分解で作った水素などお呼びでない。火力で発電した電力の売値はキロワットアワー、15~20円。10円以下の電力で電気分解した水素でなければ、ガソリン車には対抗できないし、そもそもCO2をガンガン排出する火力発電由来の水素では、全く環境に優しくない。かといって風力発電や太陽光発電などのクリーンな再生可能エネルギーでは30~40円にコストが跳ね上がる。

ということで、それらを使った電気分解で水素を作ることは現状ではかなり難しい。