オリックスを30年余り率いてきた宮内氏が6月に退任。「体が続く限りやる」と言っていたカリスマ経営者が、バトンタッチを決意した本当の理由を、これまでの仕事人生を振り返りながら語ってくれた。(※退任前にインタビュー実施)
オリックス元会長兼CEO 宮内義彦氏

CEO退任後は、「シニア・チェアマン」というポストをいただきまして、これまでと違う形で会社に貢献していきます。馴染みのない肩書にしたのは、わざとです。私自身、これから何をするのかまだ模索中。ですから、肩書も前人未到のポジションにしたほうがおもしろいと思いまして。

これまでは、出社すると会社の課題がズラッと並んでいて、優先度の高いものから1つ、2つ、3つとやっていく必要がありました。5番目くらいまで片づけると夕方になっていて、体はクタクタ。翌日はまた新たな課題が1、2、3と並んでいて、7、8、9番目あたりの課題は結局、手をつけられないままでした。

優先度の高い課題に取り組まないと会社はガタガタになりますから、CEOがそちらに集中するのは当然です。ただ、いますぐやらなくていいものの中にも、重要なものがあります。シニア・チェアマンという立場になれば、いままでおろそかにしていたところに自由にかかわれる。それが7、8、9番目にあるのか、もっと別のところにあるのかわかりませんが、どちらにしても楽しみです。

何をやるのか考えている最中ですが、いまぼんやり浮かんでいるのは、若手の育成です。かねて人材の育成が重要だと言ってきましたが、実際はできてなかった。育成されるほうは迷惑かもしれませんが、今後はそういうお手伝いができると思います。

それから、長期的な戦略も考えてみたい。先日、私の個人的アドバイザーから、パリへの移住を勧められました。なんのこっちゃと思ったら、これからはアラブ世界が重要で、コネクションをつくるならパリがいいというわけです。いまからフランス語を学ぶのはしんどいので辞退させてもらいましたけど、本当に10年後のオリックスに必要なことなら、移住もやぶさかではない。

方向性としては、会社を重装備にすることを考えています。いままで当社はゼロ戦のように飛んできました。太平洋戦争時、日本軍のゼロ戦は速いけれど、後ろの防護壁が薄いから、撃たれたらひとたまりもない。だから最終的には、スピードで劣るものの防護壁の厚いアメリカの戦闘機グラマンに負けてしまった。会社も同じで、防護壁が薄いのは危ない。これからは簡単に墜ちないように、いろんなことをしていく必要があります。