“誰もが共通に持つ思い”は聞き手を惹きつける

「人に伝える」と一言でいっても、活字で書くときと、人を目の前にして話をするときではその伝え方は大きく異なるだろう。さらには同じ内容であっても、聞き手にあわせてイキのいい新鮮な内容を交え、「自分に関わることである」と感じてもらうことが必要になる。話し手は聞き手と同じ空間で話をすることで、より説得に効果がでるからだ。

TEDのプレゼンで、哲学者アラン・ボトン氏の「成功の哲学」を見つけた。以前に氏の著作を読んでおもしろかったのですぐに飛びついたのだが、今回のプレゼンでも哲学や文学を例にとりながらも、私たちの日常にまつわる実例を挟み込み、ちょっとした笑いまで盛り込んだものだった。ボトン氏の話は、こんな風に始まった。

「日曜日の夕方の太陽が沈もうとしているとき、よく自分のキャリアに悲観的になります。なりたかった自分と現実の痛いほどのギャップを憂い、涙で枕をぬらします。こんなことを話すのは、単に私個人の問題ではないと思うからです……」

ボトン氏は「ここにいる誰もが共通に持つ思いではないでしょうか」と問いかけて、聞き手自身の問題として話に引き込むことから始めている。さらに、これから話す内容が聞き手と関係があることを具体的に伝え、そこから「成功の本当の意味」という主題へと入っていく。「聞き手が一番関心を抱くことは、聞き手自身のことである」という鉄則に沿って注意を引きつけていくのだ。