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中古住宅の重要事項説明書に書かれていること(抜粋)

宅地建物取引業法(宅建業法)35条は、宅地・住宅の売買や貸借の契約時に、売り手が文書で説明すべき項目を例示している。主に権利関係や法律上の問題、設備の状況などだが、それ以外にも物件の近くの幹線道路、線路、工場、産業廃棄物の処分場など、買い手の契約締結の意思決定に影響する事由については、契約前に説明する義務があるものと考えられる。「夜中に奇声を発する人が住んでいる」など賃貸借契約上、禁止事項に該当するような行為が続いていたり、禁止事項ではなくとも近隣住民による迷惑行為が苦情として伝わっているなど、所有者が知りえた状況があれば、説明すべき事項に該当する。物件の近隣に暴力団事務所があった場合も、その旨を説明しなければならない。東京都では、不動産業者が購入した土地の交差点を挟んで対角線の位置に暴力団の事務所があることがわかり、売り主に賠償が命じられた事例がある。

暴力団事務所に対する住民による撤去請求訴訟では、おおむね事務所から半径500メートル程度の地域の住民が原告となっており、そこから類推すると、物件から500メートル以内に暴力団事務所があった場合は、売り手に説明する義務があるとみてよい。

最近のマンション型の組事務所などは看板も掲げず、これといった特徴がないことが多い。近くにあっても見逃してしまう場合もある。だが、暴力団事務所の存在を所轄警察署等に問い合わせれば、ほぼ確実に判明する。専門の不動産業者が暴力団事務所の存在を重要事項説明書へ記載漏れした場合には、仲介業者の責任が問われる可能性があるだろう。

物件の近くに暴力団構成員の住居がある場合はどうか。一般論として、近隣に暴力団員が住んでいるというだけで、周囲の住人に大きな危険や被害が生じるとは考えにくい。重要事項と見なすには、暴力団構成員であるという属性要件に加えて、「生活の平穏が害されているか、害されると危惧される事情が存在する」という行為要件が必要になってくる。たとえば「マンション内で他の住民を威圧する」「迷惑駐車をやめない」といった迷惑行為が考えられる。