会見で泣きじゃくる姿が話題になった兵庫県議会の野々村竜太郎元県議。平成25年度に、城崎温泉などに日帰りで195回「視察」し、その交通費約300万円を政務活動費として受け取った。出張日に豪雨で特急が運休した日が含まれるなど不自然さが目立ったが、説明が不十分なまま辞職してしまった。

ところで、民間企業では温泉「視察」を経費として落とすことは可能なのか。元国税庁職員の大村大次郎氏は、次のように解説する。

「事業に関係があれば、視察旅行は経費で落とせます。どこまでが仕事で、どこからが遊びなのかという線引きが問題ですが、そこはケースバイケース。たとえばクリエーターや企画系の業種なら温泉の『視察』を仕事に結びつけやすいでしょう。その場合は、視察内容についてレポートをまとめるなど、記録を残しておくことが大切。そうすれば、国税も否認しにくい」

温泉や観光に縁がない仕事をしている人は、懇親旅行として落とせる可能性がある。懇親旅行は4泊5日以内で、全社あるいは工場や支店の従業員のうち半分以上が参加した場合に経費として計上できる。5泊以上や、参加人数が職場の半数未満の場合は、従業員への給与と見なされて課税される。

ただし、懇親旅行を経費にできるのは法人のみ。個人事業主は認められていないので要注意だ。

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「温泉を経費で落とす」3つの方法

「根拠条文はありませんが、国税庁は個人事業主の福利厚生費を認めていません。そのためフリーランスの人が1人で懇親旅行に行っても経費で落とせません。もっとも、1人でも法人をつくることは可能。法人登記して、条件さえ満たせば懇親旅行は経費になります」

職場の人と連れ立って行くことが難しければ、取引先の人と温泉に行く手もある。取引先の人と行けば、自分の旅費も接待交際費になって経費で落とせる。

こうして見ていくと、民間でも温泉出張を経費で落とせる可能性があることがわかる。しかし、これは税法上の話。たとえ国税庁が認めても、サラリーマンはそもそも会社の許可がないと経費を使えないことは言うまでもない。

では、サラリーマンが温泉出張を自腹で払い、それを経費として、確定申告で税金を取り戻すことはできないのか。給与所得者には、通勤費や図書費、スーツ代などの特定の支出を所得から控除できる「特定支出控除」という制度がある。これを利用できれば税金が安くなるが……。

「特定支出控除に関しては、視察費は対象外。『何かを見に行くだけ』ではダメなのです。たとえば勉強のために業界の見本市に行っても、研修ではないため費用は控除されません。でも、セミナーなど、『誰かから何かを教えてもらう』という形式のものに参加するなら、それが会社から認められれば、研修費として確定申告で控除できる可能性はあります」

「温泉視察」はダメだが、「温泉研修」なら認められる可能性があるということだ。もちろん、「カラ研修」が認められないのは言うまでもないから、後で疑われないよう、記録をちゃんと残しておこう。

(図版作成=ライヴ・アート)
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