いま、金融庁が公認会計士制度の見直しを進めている。そのなかで、公認会計士の資格取得の前段階での新しい資格の創設が浮上してきた。

金融庁が進める新しい資格の見直し案

金融庁が進める新しい資格の見直し案

新資格は、監査証明業務を行うことはできないが、企業会計のプロフェッショナルとして監査の補助業務や企業内での実務に従事できる、という位置付けである。名称の案は「財務会計士」だ。

会計の知識や実務能力は、監査業務以外にも活かされてしかるべき。海外では多様な非監査サービスの充実に向けた人材育成や、IFRS(国際会計基準)への対応準備も進んでいる。企業の海外進出などに伴い、企業内の会計実務も国際化・高度化が求められる。こうした背景から、国内外で幅広く活躍できる監査・会計分野の専門家が必要になるというわけだ。

では、財務会計士と公認会計士との資格制度の違いはどこにあるのか。制度見直しのきっかけともなった、公認会計士の資格試験の制度の内容と問題点から見ていこう。

これまでにも述べてきたが、財務諸表から財務の問題点や成長の可能性を探ることが公認会計士の理想像だ。そのためには、現場を知り、経済にも強い社会人が公認会計士になることの意味は大きい。しかし、現状の試験制度では、働きながら公認会計士の資格を取得するのは困難といわざるをえない。

公認会計士の資格を取得するためには、まずは短答式試験、次に論文試験に合格しなければならない。その難易度は高く、1日5時間集中して2年間、3000時間の勉強が必要だ。たとえば、実務に必携で試験に出ることもある『会計監査六法』のページ数は約3000ページもある。さらに短答式に合格後、2年以内に論文試験に通らなければならないという期限も設けられている。

もう一つ大きな問題は、論文試験に合格しても資格取得できない「待機合格者」が増えていることである。最終的に公認会計士の資格を得るには監査法人などでの実務経験が必須なのだが、景気の低迷もあって監査業界の採用数が激減し、実務経験の機会を得にくくなっているのだ。

それにもかかわらず、今回の財務会計士の認定要件にも公認会計士の短答式、論文試験の合格とともに、やはり実務経験を課す案が有力となっている。確かに実務を知ることは重要であり、その趣旨は理解できる。

しかし、せっかく財務会計士の資格をつくっても、実務を積むことができずに待機合格者が増えれば、能力や意欲のある人材を呼び込むのは難しいように思えてならない。

それならば、財務会計士については実務経験を課さずに、別途、一定の研修などの緩和された要件などで資格を与え、一般企業の経理・財務部や個人の会計事務所に就職する際の有利な条件としたらどうか。

実務経験に一定の意義があることはわかるが、まずは資格を与え、就職させて実務を積ませる、というのでもよいように思える。そのほうが、財務のプロとして日本企業の財務健全化・強化にすぐに貢献できるはずだ。

公認会計士を目指す場合は、財務会計士の資格を取得した後、さらに実務補習や修了考査などを経ることになる。そのときには、改めて監査法人に就職するなどして、監査能力を証明してもらえばいい。そうすれば、財務会計士と公認会計士の会計・財務は同レベル、違いは監査能力のあるなしということになり、両者の資格の性格の違いが鮮明になるだろう。

いまここで大切なことは、日本企業の財務をより盤石なものとし、国際競争力もアップさせていく有為な人材を育てていくことである。今回の見直しはそうしたことへの布石であってほしい。

※すべて雑誌掲載当時

(構成=高橋晴美 図版作成=ライヴ・アート)