困難に挑んできた経営者たちが見出した「束ねるための秘伝」を紹介する。認識・関係・環境・人格の4つのアプローチに分けて、 それぞれの方法を検討してみよう。
岩田 聡●1959年、北海道生まれ。82年東京工業大学卒業後、ハル研究所に入社。93年同社代表取締役社長就任。2000年、任天堂入社、02年社長に就任。

最初のころは、(Wiiの)コンセプトに共感してくれた少数の人たちが手を動かし始め、試作品みたいなものをつくり、それを見た人が、あっ、これなら今まで考えもしなかった人がお客さんになるかもしれないねと感じて少し動きが広がり、だんだんたくさんの人が巻き込まれていった。

その動きが加速したのは、ハードとソフトの部門間に意識の境界がなく、一体となってプロダクトを生み出す固有の文化が根づいていたからです。ハードチームが新しいネタを探して試作をつくると、ソフトチームもわずか1週間で試作を仕上げ、互いに手で触りながら課題を見つけ、次の可能性を探る。これを何十往復も繰り返す中で出口に近づいていく。

棒状のコントローラーもそうです。ノンゲーマーにとって何がハードルなのか。ボタンの数か。ならばテレビのリモコンは誰も触らないはずです。結局、両手で別々の動きをしなければならないことが難題になっていたことに気づいた。十字キーにABボタンを両手で操作するコントローラーは任天堂自身が生み出した理想型です。その“両手”から離れることができたのも、丸形、星形……と山のように試作を重ね、現物に触ることで固定観念の呪縛を振り解いたからです。

商品のスペックもいっぺんでできたわけではありません。半導体も高性能化の延長上でないとすれば何ができるか。茶の間に置いてもらうには電気の大食いは禁物です。ならば超省電力か。電力消費が低ければ待機モードで24時間通電し、ネットにつなげる。ネットを通せば毎日天気予報やニュースを配信できる。