「社会なんて見えない」自意識過剰で健全なナルシスト人材

「ナルシスト採用」WEBサイト

就職活動がバカらしいという若者をターゲットにした「就活アウトロー採用」について、以前この連載で紹介しました(連載第2回 http://president.jp/articles/-/12507 を参照)。おかげさまで、経験豊富、偏屈、高学歴といった様々な若者が想定以上にたくさん集まっています。参加者とディスカッションしていて毎回テーマになるのは、就活や就職、就労といった社会システムへの違和感と葛藤についてです。それは、「自己」と「社会」の激しいせめぎ合いなのだと思います。

人間は社会的環境やシステムによって「じぶん」をつくり、他者を通じて自己を理解・認識しているわけです。社会システムがほころび始め、大きく変わりはじめれば、当然「じぶん」も不安定なものになります。このせめぎ合いと葛藤をより深く考察し、一緒に企業社会や組織文化との接点を捉えなおしてみたいと考え、「自意識過剰」な若者だけを集めてみることにしました。それが、先日リリースした「ナルシスト採用(http://narcissist.so)」という実験的な就職サービスです。

ナルシストなヤツというのは、僕自身そうですが、意識が自分に対して過剰に向いてしまっているのだと思います。そして、自分への好奇心に正直すぎる。自分の振る舞いや姿がいつも気になり、一日に鏡を見る回数なども他の人よりはるかに多い。少なくとも、僕はそうです。だからといって、実は自分のことしか見えていないというわけではなく、自分をとりまく社会や他人との違いやズレにも人一倍敏感なのです。しかし、自分への執着が強すぎ、そのズレを妥協して、社会に迎合することができない。

システムが個人を取り込むことで急成長してきた戦後の日本社会において、自意識過剰なナルシストたちは、生きづらい思いをすることも多かったのだと思います。そんな彼らこそ、世の中の“あたりまえ”に疑問を持ち、そこから生まれるズレや違和感、葛藤によって、社会システムや日常的な物事を俯瞰してしまう、いや俯瞰することのできる視点を持っている。ちょっと論理が飛躍しすぎでしょうか……? 僕がナルシスト人材に着目するのは、そういう理由からです。

もちろん、いまの社会システムの全てを否定するわけではありません。どの水道の蛇口をひねってもきれいな水が出る。いつでも必ず時間どおりに電車が来る。素晴らしいことです。しかし、今あるシステムがいつも正当であり、「すべてである」と思い込んでしまうことは、あまりに危険で不健全です。これはヤバい……。「社会」なんて移ろいやすく、絶えず形を変えていくものです。何もかもがコロコロ変わる激動の時代に、個性や偏りを圧殺して社会や組織に没入することが、本当にまともな「社会性」だと言えるのでしょうか。