毎年8万冊近くの新刊が刊行される中、何を読めばいいものか。書評家で出版コンサルタントの土井英司氏が、今、読むべき言葉本を伝授する。

空前のブーム!言葉本の正体とは

土井英司氏

今、アドラーや孫子などの言葉を取り上げた本が売れている。最近では『希望名人ゲーテと絶望名人カフカの対話』という、2人の偉人の言葉を交互に載せる進化したスタイルまで出てきた。そのほかにもさまざまな「言葉」を取り上げた本が多数刊行され、売れているのは偶然ではない。

出版コンサルタントとして、長くビジネス書を研究していると、世の中の流れとビジネス書の流行はリンクしていることがわかるから面白い。

2008年のリーマンショック、11年の東日本大震災後は、今までのシステムやものを手放し、ゼロリセットするきっかけとなった。これが13年の「ゼロ」ブームにつながった。それが今、アベノミクス効果により、人々は行動を促され、前に一歩踏み出そうとしてきている。そのため、勇気を与える偉人たちの言葉が注目されているのだと思う。なかでも名言だと思うものを各本の中から紹介していきたい。

まずお勧めしたいのは、『ビジネスマンの父より息子への30通の手紙』だ。大学に合格したばかりの頃、書店に山積みされているのを見て、経営者志向の強かった私は、すぐに飛びついたのを覚えている。それ以来、何度も繰り返し読んではボロボロになり、今、手元にあるのは3冊目だ。

この本は、実業で成功した父親が息子へあてた手紙30通を編集したもの。息子が学生のときから、やがて経営者になるまでのフェーズごとに、父親が必要と感じた教訓や名言を伝えている。さまざまな書物からの引用もよくまとめられており、名言だらけの本だ。

私が励まされた言葉の一つが、「もっと大きくなれるのに、なんと小さな俗物(ポテト)であることよ」というチャールズ・ダッドレー・ワーナーのもの。あなたの父や周囲の人間は、あなたがもっと成長することを期待し、それだけのポテンシャルがあると見ている。それなのにあなたは、怠慢によってなんと小さくまとまっていることか、と突き付けているのだ。この言葉に奮い立たないわけにはいかない。