上野千鶴子(うえの・ちづこ)
1948年生まれ。京都大学大学院社会学博士課程修了、コロンビア大学客員教授などを経て、93年東京大学文学部助教授、95年東京大学大学院人文社会系研究科教授。現在、東京大学名誉教授、NPO法人WAN理事長。

女性の状況がこんなに悪化するのを座視してしまいました。ごめんなさい――。ジェンダー研究の第一人者である上野千鶴子さんは、本書のあとがきで、若い女性たちに謝った。日本にフェミニズムが育ったこの40年。昨今では特に“ウーマノミクス”が加速している印象がある。それでも、上野さんが謝罪する理由とは?

「今、新卒女子の約半数が非正規労働市場に入るんですよ。これでは先が見えず、子どもなんて産めません。一方、正社員として就職できた女性はハッピーかといえばそうでもない。男並みに働いて疲弊するか、2級労働者として扱われるか。我々世代は、女がこんなに生きづらい社会しかつくれなかったのかと思うと、忸怩たる思いです」

安倍政権の「女の使い方」にも、企業の女性活用にも「男の勘違い」を感じると言う。

「政府や企業はいつも『困ったときの女頼み』で、落ち目になると女に頼るけど、本当に危機感を感じているわけではないから、組織体質を変えないまま、“男化”した女を受け入れるだけ」

女性を組織で本当に活躍させるためには、「雇用や評価のルールを変えるなど大胆な組織改革が必要」だと強調する。

「日本の企業は社員の評価に差を付けてこなかったし、評価基準なんてあってないようなもの。だから、早く帰る女は成果を出しても和を乱すとして許さない。また、日本型雇用慣行では、育児のために会社に出たり入ったりができないんです」

結果、専業主婦という「最後の資源を埋蔵させている」。

「プレジデント読者の奥さんだって、仕事をさせたら自分よりよっぽど優秀なんじゃない? それを、たった一人の馬鹿男に仕えさせてさ(笑)」

男性も、女性労働の問題を自分事として考えてほしいと語る。

「定年まで逃げ切れればいいという考えは捨てて。そのツケは自分の娘にやってくる。自分の娘が、社会に冷遇されたら悲しくないですか? 20年先、30年先の日本を考えて人材を育ててほしいですね」

(市来朋久=撮影)
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