世界で最も長く収監されている死刑囚としてギネス認定された袴田巌さんが釈放された「袴田事件」は大きな話題になった。その4日後の3月31日、同じく再審を求めた「飯塚事件」のほうは、福岡地裁が再審を認めない決定を下し、弁護側は不服として即時抗告した。

1992年、福岡県飯塚市で小学1年の女児2人が殺害された飯塚事件。久間三千年元死刑囚が逮捕され、2008年に死刑執行(享年70歳)。元死刑囚の妻が09年に再審を請求していた。

「すでに死刑が執行されてしまっているため、もし再審請求が認められたら再審開始=ほぼ無罪なので“国家が無実の人間を誤って死刑にした”ことになる。日本の警察、裁判制度を根底から揺るがしかねない裁判として以前から注目されていました」と取材に当たった全国紙の司法担当記者は話す。

飯塚事件は、09年にDNA型再鑑定により冤罪が確定した「足利事件」との関連で注目された。足利事件では殺害された幼女のシャツに付着していた精液を警察庁の下部機関・科学警察研究所の主任研究官らが鑑定し、菅家利和さんのDNA型とほぼ一致したことが決め手になり、菅家さんは無期懲役になった。ところが再鑑定の結果、精液のDNA型は菅家さんとはまったく別人のものであることが判明。菅家さんは無罪になった。

飯塚事件と足利事件は同時期に科学警察研究所でDNA型鑑定が行われ、同じ主任研究官が鑑定を実施。鑑定方法も同一だった。また飯塚事件で犯行に使われたとされる車の目撃証言でも捜査員による誘導が疑われていた。元死刑囚は死刑執行されるまで一貫して無実を主張した。

「当初、再審請求審の裁判長は13年8月退官予定だった福岡地裁の高原正良総括判事が務めた。高原氏はDNA型鑑定の専門家の尋問など2年間熱心に審理。裁判官は定年退官前に重大判決を出す傾向があり検察側は“再審開始決定を出すのでは”と戦々恐々だった。ところが高原氏は無責任にも可否決定を下さず退官。後任の平塚浩司裁判長は弁護士、検事、裁判官による三者協議を1、2回開いただけで、引き継ぎからわずか半年余りで再審棄却の決定を下しました。法曹界では“裁判所は再審開始決定した場合の社会的影響の大きさを恐れたのでは”とささやかれています」(前出記者)

抗告審は要注目だ。

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