他社の力を使って、社内の力を伸ばす

ルネサンス会長 
斎藤敏一
(さいとう・としかず) 
1944年、宮城県生まれ。67年京都大学工学部卒業、大日本インキ化学工業株式会社(現・DIC)入社。同年、スイス連邦工科大学へ留学、69年に帰国。研究所、海外事業部を経て、79年に健康スポーツ事業を企画し、ディッククリエーション(現・ルネサンス)を設立。92年に社長に就任。2008年より現職。

1984年5月、仙台市のビール工場の跡地に、屋内コートを持つテニス教室が開業した。その企画を引き受け、コーチを派遣し、運営も受け持った。自社でテニス教室を開くのではなく、他社から企画・運営を請け負う初めてのケースだった。

4年半ほど前に千葉市・幕張で旧ボウリング場を改装し、1号店「ルネサンス・テニススクール幕張」を開いた。以来、ブームが去って閉めたボウリング場を借りて、いくつかのテニス教室を成功させる。だが、初期投資が少なくて済み、改装や屋内プールなどを増設しても2億円から3億円で収まる「転用戦略」も、候補地がなくなりつつあった。

かといって、土地を取得し、複合スポーツ施設用の新棟を建てる「一からの開発」には、10億円単位の初期投資が要る。いくら東証一部上場の大日本インキ化学工業(現・DIC)が親会社とはいえ、創業まもない身には、巨額だ。開業や運営のコストを圧縮する手法を次々に編み出してはいたが、勝算がみえないことには、手は出さない。

そんなとき、地価上昇や金融の超緩和で資金力を高めた企業が、レジャー分野へ進出してきた。専門誌が主催する講演会へ、講師に呼ばれる機会が増える。そこで、主催者に参加者の名簿をみせてもらう。不動産開発会社に混じって、ビールや都市ガスなどレジャーとは関係がなさそうな企業名もある。それらの「新規事業室」などの面々と名刺を交換すると、「うちでもやりたい。ノウハウを出してほしい」と頼まれた。

1件が300万円から1000万円。40代を迎える直前からの5年間に、10社ほどから引き受けた。開業後の運営も、受託する。収支が安定し、大型施設の設計や建設、運営のノウハウも蓄積できて、自社の力が大きく伸びる。第1号となった仙台は、生まれ育った地。不思議な縁を感じた。

実は、企画や運営を請け負ったなかで3カ所は、採算性に難があり、部下が「やめよう」と言った。しかし、進めた。「ここは儲かるから引き受けるが、こちらは難しいから断る」とやれば、相手が引いてしまいかねない。それほど、立場も強くないし、「部分最適」にのみ目が向くと、「全体最適」を損なって、全体の勝算が崩れかねない。