取材は優勝パレードの直後だった。万年Bクラスのチームを再建した元金融マンは、球場での撮影で「表情、硬いっすよ!」と社員に冷やかされていた。「笑うな!」と返す東北楽天ゴールデンイーグルス社長・立花陽三氏。そのやり取りは、チームの結束力を確かに物語っていた。

(※第1回はこちら http://president.jp/articles/-/12321

職員と選手間にある「話してはいけない空気」を壊したい

――フロントの仕事は、優勝に向けた戦力補強だけではない。もう一つ、経営の黒字化という大仕事が待っている。外資系証券で債券部門の担当だった立花氏はBtoBの経験が豊富だったが、プロ野球はファンありきのBtoCビジネス。その極意を学ぶため、社長就任後に渡米して、約10球団の社長やGMに話を聞いた。
東北楽天ゴールデンイーグルス社長 
立花陽三氏

印象的だったのは、ダイヤモンドバックスのデリック・ホール社長です。彼は「自分が球団の一番のファンでなければいけない」といって、ファンと同じ席に座って観戦していました。服装もスーツではなく、グッズショップで売っているもの。ダイヤモンドバックスの社員も同じで、胸には「FAWTSY」(Find A Way To Say Yes イエスという方法を見つける)と書いた缶バッジをつけて歩いている。それだけファンを重視しているということです。

日本のプロ野球の市場規模は約1500億円で、アメリカのそれは約7倍ともいわれている。日本より7倍も大きいのに、それにあぐらをかかずに切磋琢磨している。それに比べると、私たちは明らかに足りない。格好つけているわけではなくて、私はファンの意見を聞くために球団の代表をやるんだという気持ちを強くしました。

黒字化という目標も、ファンの声をどれだけ聞けるかということにかかっています。そもそも宮城県や仙台市の人口は少ないから黒字化は無理だという人もいます。たしかに宮城県の人口は200万人、仙台市は100万人で、マーケットという意味では大きくありません。でも、うちは“東北”楽天ゴールデンイーグルス。東北には800万~900万人の人が住んでいるし、関東などに出た人も合わせれば、東北人は1000万人以上になります。そう考えると、市場の大きさは言い訳にならない。やはりアプローチの仕方が十分でないのです。