「木を見て森を見ず」とみなす理由

民主党・枝野幸男経産相(当時)のもとで33回、自民党・茂木敏充経産相のもとで17回、あわせて50回にわたって開催された審議会を経て、ようやく新しい「エネルギー基本計画」の骨格(正式名称は「エネルギー基本計画に対する意見」)がまとまったのは、昨年12月のことである。そして、この意見書に沿う形で、新「エネルギー基本計画」が閣議決定される。

新「エネルギー基本計画」のもとになった意見書は、各エネルギー源の重要性を、以下の通りまんべんなく指摘している。

●石油:利用用途の広さや利便性の高さから、今後とも活用していく重要なエネルギー源
●天然ガス:シェール革命などを通じて天然ガスシフトが進み、今後役割を拡大していく重要なエネルギー源
●石炭:供給安定性・経済性に優れたベース電源であり、環境負荷を低減しつつ活用していくエネルギー源
●LPガス:シェール革命を受けて北米からの調達も始まった、有事にも貢献できるクリーンなガス体エネルギー源
●原子力:安全性の確保を大前提に引き続き活用していく重要なベース電源
●再生可能エネルギー:安定供給面やコスト面で様々な課題が存在するが、温室効果ガス排出のない有望な国産エネルギー源

このような指摘を受けて、エネルギー産業に関連する各業界紙は、総じてこの意見書を高く評価する論陣を張った。自らの業界が主として取り扱うエネルギー源の重要性が、きちんと評価されたというわけだ。

しかし、このような評価はやや一面的であると言わざるをえない。なぜなら「木を見て森を見ず」のたとえが、そのままあてはまるからである。

新しいエネルギー基本計画に対して多くの国民が期待していたのは、目標年次とされた2030年において日本の電源ミックスや一次エネルギーミックスがどのようなものとなるか、その見通しを数値で明示することであった。しかし、今回の基本計画は、電源ミックスやエネルギーミックスを数値で示すことを避け、それを先送りした。各エネルギー源の重要性に関する定性的で総花的な記述に終始したのである。

今回の「エネルギー基本計画に対する意見」は、各エネルギー源の位置づけという「木」については言及している。しかし、それぞれのエネルギー源の全体としてのバランスがどうなるかという肝心な論点、つまり「森」については立ち入ることを避けている。「木を見て森を見ず」とみなす理由は、ここにある。