進学校として知られる都立小山台高校(品川区)が、センバツ高校野球開幕の今日、甲子園の土を踏む。

大正11年創立で、多くの政財界人などを輩出している同校は春夏通じて甲子園初出場。また、都立高校がセンバツに出場するのも初めてで、対戦相手は大阪の強豪・履正社だが、いきなりの初勝利も決して夢ではないと、高校野球関係者は語っている(同校密着ルポは、現在発売中の『プレジデントファミリー』5月号グラビアをご覧ください)。

おそらく今回の春のセンバツ出場校で、練習環境が最も悪いのは、都小山台ではないか。私立の常連校なら、グラウンドに照明施設や雨天練習場が備わっていることも珍しくないが、同校にそんな上等なものはない。つい数年前まで、バッティング練習用のマシンやゲージも存在しなかった。

校庭は狭い上、他の部活と共用するのがルールだ。

また、夕方5時から定時制授業が始まるため、練習時間は最大90分。監督の福嶋正信さんによれば、「日本一練習時間が短い」。

にもかかわらず、なぜ甲子園出場を果たせたのか。

昨秋の都大会では、早稲田実業や堀越、日大豊山といった、2つも3つも格が上の私立高校を次々と撃破し、ベスト8に。その功績が評価され、「21世紀枠」で出場が決定した。

福嶋監督は、頭を使わない不注意なプレーに対してしばしばカミナリを落とす。

私立を倒した原動力は、ひとことでいえば「頭のいい練習」だ。

2月の大雪の休日、グラウンドが使えないため、部員は学校内の吹き抜けエリアに集合していた。そこでバドミントンのシャトルをボールに見立てて、その先端をバットでミートする。これは他校でも見られる練習だが、小山台スタイルはひと味違う。

シャトルを投げる役が1人ではなく、2人なのだ。その2人が2人羽織りのようなポジションをとり、同時に投球フォームに入る。そして、ある時は前にいる選手が投じた速いシャトルが、ある時は後ろにいる選手が投じた山なりの軌道のシャトルが投げられる。バッターはそれをしっかり見極めて打つのだ。

「投手役が1人ならミートは簡単ですが、2人の場合は、どちらのシャトルが来るか注意しなければきちんと打てません」と、ある部員は語った。

グラウンドでの内野手間のタッチプレーの送球練習に関しても、ひと工夫。野球ではしばしば相手の胸めがけて投げるのがセオリーとされるが、彼らは「50cmの高さ」をターゲットに送球することを徹底していた。

スライディングする走者にタッチするための送球なので、胸の高さより、地上50cmのほうがアウトにできる確率が高まるのだ。

とかく惰性でやってしまうこうした反復も、実践に即した「小さな目標」を立てて取り組む。そんな機能的かつ合理的な「考えながらの練習」だからこそ、日本一短い練習時間のハンデを乗り越えられたのだろう。