休職期間を2カ月に区切る精神科医の算術

「気分が落ち込んで、会社に行けなくなってしまいました。休職したいので、診断書を出してください」

最近、初診のときからこのように要望される患者さんが多くなりました。精神科の医師としては、「こういう症状があって辛いので、何とかしてほしい」という依頼を受け、まず診察・治療を行うのが通常のステップだと私は考えています。それだけに、すぐに診断書を欲しがる患者さんとの意識のギャップに、戸惑いを隠せません。

そうした背景には「うつ」に対する考え方の変化があるようです。従来は「大うつ病」といい、意欲や活動性が極端に低下し、罪責感や時には死を願う気持ちを強く持つような重篤な状態となって初めて精神医療の対象となりました。それが近年は、たとえば「気分変調症」といって、そう激しくはない気分の落ち込みが長く持続するような状態も、疾患の範疇に含まれるようになったのです。

気分変調症は精神障害の国際的な診断基準であるDSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)にも載っています。しかし、重篤感のない気分の変動までも医師が「病気」として扱うことは、時には患者さんが人生の課題に対峙する機会を奪うことにもつながります。医師は診断をつける際には慎重であるべきです。

また、10年ほど前からは「新型うつ」の概念も定着してきました。自分の好きな仕事や活動のときは元気な一方で、それ以外のときは極端に気分が落ち込んでしまうのが大きな特徴です。また、自責感に乏しく、他罰的で、何かあると会社や上司のせいにしたがります。ですから、休職することにあまり抵抗感や罪の意識を持ちません。この新型うつに関しては多くの学者がいろいろな説を発表していて、病気と扱わない立場の医師もいるほどです。