新商品の発想は「不満と不足」から

アイリスオーヤマ社長 
大山健太郎
(おおやま・けんたろう) 1945年、大阪府生まれ。64年大阪府立布施高等学校卒業。同年、父の急逝によりプラスチック成型加工の大山ブロー工業所(現・アイリスオーヤマ)代表に就任。71年株式会社化し、翌年宮城・大河原工場を建設。石油ショック後の経営危機を経て、81年消費財分野に進出、ホームセンター向けプラスチック製品のトップメーカーに育てた。

1987年1月、41歳のときに、プラスチック製の犬小屋を発売した。安くて、洗いやすい。ペット用品市場への参入だ。30代から掲げた「快適生活の支援をしよう」という路線の一環だった。

路線の第一弾は、6年前に売り出した園芸用品。当時あったプラスチック製のプランターは、素焼きの鉢の素材を換えただけ。水を与えすぎると根腐れし、園芸の愛好家に不満が募っていた。社内には、田植機向けの育苗箱で蓄積した技術や、保水率や空気の含有率などに関するノウハウがある。水はけをよくするために、底を網目状にして、地面との間に少し空間ができる構造にした。

高校時代に好きだった欧州映画には「花と緑のある暮らし」が、よく出てきた。個人の生活をいかに豊かにするかという「質の時代」の潮流が表れ、「日本にもそんな時代がくるだろう」と思っていた。仙台市の自宅で庭いじりをしてみたら、既存の園芸用品には欠点だらけ。そんな生活者の「不満と不足」を解消することが、「快適生活」につながる。その確信が、標語を生んだ。

新しい犬小屋も、自ら感じた「不満と不足」から生まれた。園芸用品の急成長に、天井感が出始めていたときだ。小学校へ通っている子どもたちが「犬を飼いたい」と言い出した。コリーをひと回り小さくしたシェットランドシープドッグを買ってあげた。可愛いし、すぐに家族の一員になる。でも、当時の犬小屋はベニヤ板製で、尿の臭いが溜まって、

「快適」からは程遠い。そこで、プラスチックでつくる。ペットも家族なら「快適生活を支援」の対象だ。生活様式が変わり、室内で飼う人が増えるなかで、ペット用の室内トイレやシーツもつくる。