憲法を改正したい、誤った史観を正したい

政権発足から丸1年が経過した2013年12月26日、安倍晋三首相が靖国神社を参拝した。首相の靖国参拝は06年の小泉純一郎氏以来、7年ぶりのことである。今回の安倍首相の靖国参拝を「馬脚を現した」という声もあるが、そうではない。本質的にそういう人間なのだ。

安倍首相の応援団は2派ある。一方は経済重視のアドバイザリーグループで、「靖国参拝は封印して経済に専念せよ」と安倍首相の手綱を引っ張ってきた。もう一方は、地元サポーターなどの伝統的な保守勢力からネトウヨ(ネット右翼)まで含めた右派グループで、彼らは「国民の代表である首相が靖国に行くのは当然」と考えている。

安倍首相のメンタリティはどちらかといえば後者に近い。つまり集団的自衛権を行使したいし、憲法を改正したい、戦後の誤った史観を正したい。そして靖国神社に参拝したいのだ。

それらを封印して1年頑張った結果、東証平均株価は56%伸びた。年末年始でマスコミのマークも緩い――と、参拝を強行したのである。靖国参拝を後押しする勢力からは「よくやってくれた」という評価になるが、

「在任中の参拝は控えてもらわなければ商売に差し障る」と訴えていた財界関係者などには、想定の範囲内ではあるが、突発的な出来事だったはずだ。

むしろ安倍首相にとっても財界にとっても“予想外”だったのは、今回の参拝に対する国際社会の反応である。中韓の反発という想定を超えて、靖国問題が世界中でクローズアップされて、アメリカやロシア、インド、ドイツなどからも厳しい批判的な声が寄せられたのだ。

アメリカのケリー国務長官(左)とヘーゲル国防長官が、戦没者墓苑に献花したが、これは日本への「メッセージ」だった。(時事通信フォト=写真)

これまで日本のトップの靖国参拝に過去一切言及してこなかったアメリカ政府までが「失望した」との声明を発表した。その後、「靖国参拝そのものを論評した『失望』ではなく、近隣諸国との関係悪化を懸念したもの」と取ってつけたような言い訳をしたが、以前に指摘したように(「アメリカが警戒“失言政治家”の危ない勘違い」http://president.jp/articles/-/9819)、安倍首相を「危険人物」とみなして警戒していたアメリカ政府としては、安倍首相の行動に失望したというのが本音だろう。

というのも以前から強烈な警戒警報を発していたからだ。13年10月、2プラス2(日米外務・防衛担当閣僚会合)で来日したジョン・ケリー国務長官とチャック・ヘーゲル国防長官は千鳥ヶ淵の戦没者墓苑を訪れた。靖国神社ではなく、わざわざ千鳥ヶ淵の慰霊碑にアメリカの要人が献花したのは安倍首相に対する
「強烈なメッセージ」だったはずだ。