国内最大手の製薬会社である武田薬品工業(以下、武田)で初の外国人社長が誕生することになった。

ライバル社、GSKから転身し、COOに就任するクリストフ・ウェバー氏。(時事通信フォト=写真)

14年6月付で、英製薬大手グラクソ・スミスクライン(GSK)からCOO(最高執行責任者)に招いたクリストフ・ウェバー氏が社長を兼任し、現社長の長谷川閑史氏は会長兼CEOに就任する。さらに1年後を目途に長谷川氏からウェバー氏にCEOの座が譲り渡されることも発表された。

異例のトップ人事について、「競争力のある会社になるためにはグローバルスタンダードな人材が必要。日本人だとか外国人だとかで意思決定が束縛される時代ではない」と長谷川社長はその狙いを語っている。

武田といえば創業233年の歴史を誇る製薬会社で、代々の社長は創業家の出身者だった。その慣例を打ち破ったのが「名経営者」と謳われた7代目社長の武田國男氏だ。ドメスティックな製薬会社を世界化する必要性を痛感し、創業家とは関係のない海外経験豊富な長谷川氏を後継者に指名した。

長谷川氏はドイツやアメリカの子会社で社長を歴任した国際派で英語も堪能。コンサルタントの観点からも、國男氏の選択は適切だったと思う。

実際、長谷川氏が社長兼CEOに就任した03年以降、武田のグローバル戦略は加速して、08年には米ミレニアム・ファーマシューティカルズ社を約9000億円で、11年には新興国に強いといわれるスイスのナイコメッド社を約1兆1000億円で買収した。

長谷川氏の社長就任前に4割弱だった海外売上高比率は今や5割を超えている。執行役員に当たる11人のコーポレートオフィサーのうち7人が外国人で、各地にあった研究所を統合して11年に完成した「湘南研究所」には多国籍の研究員が集まっている。大阪・道修町の薬種問屋のイメージからはもはや遠い。

そして先代からグローバル経営という命題を授かった長谷川氏が、「國男前社長にも相談せずに決めた」といって、次にバトンを手渡したのが次期社長のウェバー氏である。ウェバー氏はフランス出身の47歳。GSKワクチン社の社長で、08~10年にはアジア太平洋地域担当の上級副社長兼ディレクターを務めている。

武田のグローバル戦略は、地域的には、欧米だけではなく新興国市場を開拓し、分野的には、ワクチン部門の強化をもくろんでいる。ウェバー氏のキャリアと能力はそこにピタリとハマったというわけだ。