政府系金融機関の経営トップに、民間出身者に代わって官僚出身者が就任するケースが相次いでいる。国際協力銀行(JBIC)では昨年12月26日付で、トヨタ自動車の社長・会長、日本経済団体連合会(経団連)会長を務めた奥田碩総裁が退任、後任に渡邊博史副総裁が就任した。渡邊氏は2004~07年に財務省で事務方ナンバーツーの財務官を務め、官僚出身者としては商工組合中央金庫(商工中金)、日本政策金融公庫に続く政府系金融機関トップ起用となった。

渡邊氏は一昨年4月、JBICが日本政策金融公庫から分離・独立する際、一事業部門のJBICの経営責任者だった実績から総裁就任が取り沙汰された。しかし、「天下り禁止」を打ち出した当時の民主党政権が、最終的に奥田氏の起用で押し切った経緯がある。その意味で今回のJBIC総裁人事は、自民党の政権奪還で風向きが変わり、霞が関のパワーが息を吹き返したことを強く印象付けた。

政府系金融機関のトップ人事では、商工中金は昨年6月、新日本製鉄(現新日鉄住金)元副社長の関哲夫社長に代わり、元経済産業事務次官の杉山秀二副社長が昇格した。これに続き、10月には日本政策金融公庫で帝人元会長の安居祥策総裁の後任に元財務事務次官の細川興一副総裁が就任し、今回のJBICを加え、昨年だけで3機関のトップが揃って民間出身者から官僚出身者に切り替わった。

かつて官僚出身者の指定席だった政府系金融機関のトップ人事を巡っては、前の自民党政権当時、「官から民」への流れを加速した小泉純一郎政権による政府系金融機関改革に伴い、天下り廃止が打ち出され、各機関のトップに民間出身者を据えた。実際、関・安居両氏も、08年の福田康夫政権当時の起用だった。

JBIC総裁に就任した渡邊氏は、昨年12月26日の記者会見で「国際機関や政府と直接話す場面が増えており、公的部門で働いた経験が生かせる」と述べ、天下り批判をかわした。

安倍晋三政権は、官邸主導を掲げつつも、民主党政権と違って官僚機構を活用する方向を強めており、一連の政府系金融機関トップへの官僚出身者の復活は、ある意味で自民党政権下での官僚機構の復権が滲み出る。半面、民間企業に比べて低い報酬などもあって、民間出身者に政府系金融機関トップへのなり手がいないという事情も垣間見える。

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