2013年末、「2014年にインターネットは消滅する」と題した記事がネット上で話題になった。ネットワークセキュリティで定評のある露カスペルスキー社の12月12日付年次レポート(英語)を、ニュースサイト「ロシアの声」が同15日付で邦訳したものだ。

カスペルスキー社広報が「誤訳」としたこのレポートのテーマは「監視下に置かれるインターネット」。国家の規制などによるネットの「ウオールドガーデン(壁に囲まれた庭)化」がその主眼だ。同社チーフセキュリティエヴァンゲリストの前田典彦氏によれば、「背景には各国のネットに対する脅威と危惧の増大がある」という。中国のように国家がネットを監視し、米グーグルを本土から撤退に追い込んだ前例はあるが、同国は世界中から“奇異な国”とレッテルを貼られた。

しかし事態は一変した。13年6月、米国家安全保障局(NSA)の元職員スノーデン氏が、ネット上で諜報活動を行っていた事実を世界中に暴露。これにグーグル、ヤフー、フェイスブック、アップル、ユーチューブなど主要ネット企業が加担した事実が判明した。各国政府は保護対策の強化に乗り出し、民間の大手クラウドサービスプロバイダーでは、データの暗号化など保護対策を始めた。

“良い”“悪い”を問わず、国境を越えた情報にアクセスできることで発展してきたのがインターネットだ。“悪質”な情報は消すのではなく、どう遮断するかに英知を傾けてきた。が、独自の法制度や宗教、文化ゆえにそれが是認できぬ国もあろう。「天安門事件」の検索結果を表示させない中国のように、国が都合の悪い情報を隠すのは明らかに間違いだが、つながることで何でも検索されたり、行動を監視されるのも問題だ。「検索されない権利」や「忘れられる権利」(消したい情報の削除)などの問題も起きてきた。

「今後注視すべきは、中国のようなあからさまな手法を取らず、別のやり方や見せ方で事実上監視の強化を行い、ウオールドガーデン化する国が出てくることだ」と前田氏はいう。そうなれば、ネットのネットたる機能が“消滅”し、各国単位のナショナルインターネットが幅をきかす時代が来るかもしれない。

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