医師の「手術の技量」をもっとも知りうるのは、同業者である医師である。彼らでさえ「自らが患者なら診てほしい」と太鼓判を押す名医を紹介しよう。

重要な機能を残す「体にやさしい手術」

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胃がん

慶應義塾大学病院(東京都新宿区)一般・消化器外科は、臨床・研究で日本のリーダー。なかでも、今では一般化した腹腔鏡・胸腔鏡手術のパイオニアである。世界初の胃がんに対する腹腔鏡下胃局所切除が慶應で行われたのは92年のことだった。当時の北島政樹教授の指揮のもと大上正裕講師が開発した。

その環境の中で臨床・研究を行ってきた北川雄光教授は、当然、胸腔鏡・腹腔鏡手術のスペシャリスト。患者の“体にやさしい手術”の研究は北川教授の得意とするところ。人間の臓器に不要な臓器はない。残せるものなら、少しでも多く残すほうがいい。北川教授が今、胃がん手術の縮小化に向けて取り組んでいるのが、先進医療となっている「早期胃がんに対する腹腔鏡下センチネルリンパ節(SN)生検」である。

「がんの転移が最初に及ぶリンパ節を、センチネルリンパ節といいます。そこにがんが達していなければその先のリンパ節の切除は不要になります。センチネルリンパ節を調べてリンパ節の切除範囲を決めるのがセンチネルリンパ節生検です。それを、より体にやさしい腹腔鏡によって行います。その状況によって普通は胃を3分の2切除するところが一部分の切除で済むことも。胃の入り口の噴門を切除すると、胃液が食道に逆流する『胃食道逆流症』のリスクがあります。出口の幽門を切除すると『ダンピング症候群』のリスクがあります。重要な機能を残し、必要最小限の手術を――これがコンセプトです」