相続に際して、長年の恨みつらみから遺族同士での争いが起きることはよくあります。もし悪意があって、財産もいらずに、単に「あいつに嫌がらせをしたい」と遺族の一人が考えていたら大変です。相続問題はこじれさせようと思えばいくらでもこじらせることができるからです。

<strong>弁護士 野澤 隆</strong>●1975年、東京都大田区生まれ。都立日比谷高校、早稲田大学政治経済学部政治学科卒。弁護士秘書などを経て2008年、城南中央法律事務所を開設。
弁護士 野澤 隆●1975年、東京都大田区生まれ。都立日比谷高校、早稲田大学政治経済学部政治学科卒。弁護士秘書などを経て2008年、城南中央法律事務所を開設。

たとえば、本人死亡から葬儀その他が終わった後1年程度経過したところで「話し合いたい」という旨の内容証明郵便を送ります。そうして話し合う姿勢を形だけ見せながら、のらりくらりと慎重な態度をとり続ければ、2~3年は書面のやり取りだけで時間が経過してしまいます。この調子で遺産分割協議も細かい因縁をつけ続けていくと、相続人が多く中途半端な金額の相続財産では家庭裁判所に申し立てる人もなく、30年くらいは平気で過ぎます。相続が3世代にわたり、相続人が20人近くになるケースも実際に起きています。その間、相続財産が引き継げないわけですから、大変な迷惑です。

血のつながった親族であったとしても相続を穏便に解決することは難しいのに、死亡した夫(父親)に離婚経験があり、離婚した前妻との間に子どもがいた場合などは、かなりの確率で深刻な事態に陥ります。たとえば、前妻の子どもに対する養育費が幼いころからほとんど払われていなかったとします。しかし、後妻の子どもの子育てや教育にはしっかりお金がかけられていたとすれば……。

民法には「特別受益」という概念があり、商売継続のための多額の運転資金の援助、マイホーム購入資金の援助など、生きている間に故人から特別に援助をしてもらった場合、相続分の事実上の前渡しとされ、援助を受けた相続人の相続分が減額されることがあります。100万円単位の援助がなされれば、裁判所が認定することが多いようです。

後妻の子どもを中学校・高校・大学に通わせ普通に育てただけでも、母子家庭で苦労した前妻の子どもから見れば特別受益だと見えてしまうものです。故人がマンションなどの財産を残していた場合、前妻の子どもにしてみれば好機到来、なんとかして遺産を分捕ってやるとなるわけです。後妻の子どものほうだけ大学の費用が出されていたぐらいで特別受益となることはあまりありませんが、この機を活かして一矢報いてやる、と息巻いてどんどん相続はこじれてしまいます。