年収1億円以上の私の顧客を見ていると、自分は運がいい、強運であると言えるかどうかも、とてつもない報酬へのひとつの試金石ではないかと思う。

オンテックスの小笹公也会長が、まだ20代前半だったころの体験で、運にまつわるエピソードを聞かせてもらったことがある。

ある冬、小笹会長の会社で、新興住宅地で建設中の大規模マンションの塗装を受注したことがあった。そこに、下請けの塗装業者を派遣した。

その彼らの仕事が遅いのだ。現場を見ている発注元から連絡が入り、とてもではないが、あれでは工期に間に合わないという。仕方がないので、若い職人を5人ほど連れて応援にいくことになった。

ところが、現場についてみると、思った以上に仕事が遅れている。しかも、周りには大きな研究所の駐車場があり、一面に車が停まっている。つまり、吹きつけをするためには、塗料が飛び散っても平気なように、車1台1台をシートで覆わなくてはならないわけだ。とてもではないが、そんな手間はかけられない。

そこへ、雪が降ってきた。それも大粒の雪が、みるみる積もりはじめたのだ。

その雪を見て、下請けの業者は帰り支度をはじめた。

「ちょっと待て。絶対帰るな。いま、チャンスやないか!」

小笹会長は、思わず叫んだ。いまであれば、駐車場の車に塗料よけのシートをかけなくても、降り積もった雪がシートの代わりになってくれる。そのうえ塗料は水性なので、たとえ飛び散っても、雪と一緒に流れてくれるのだ。

小笹会長たちは、もち込んだ塗装のマシン3台をフル稼働して、一気に残っていた軒裏の塗装にかかった。

塗料を混ぜる機械から電気が伝わって、手がびりびりした。軍手が雪で濡れてしまっているからだ。だが、これにより、工期を一気に短縮することができた。

大雪が、小笹会長に運をもたらしてくれたわけだ。