>>齋藤さんからのアドバイス

人間の集中力というのは、長くは続かないものです。本来続かないものを続けさせるには技術が必要。効果的なのは「丹田呼吸法」を身につけることです。

へそから指3本分くらい下の腹の奥に臍下丹田と呼ばれる部分があります。そこに意識を集中して肩の力を抜き、鼻から息を吸って口からゆっくり吐きだします。それを繰り返すうち、気持ちが落ち着いてきます。3秒吸って2秒間止め、10~15秒かけて細く長く吐くというリズムです。

私は学生のころから、この呼吸法を2分間ほど行ってから勉強や仕事に取りかかるようにしていますが、習慣づけることでオンに向かう「構え」ができ、スイッチが入りやすくなるように思います。

集中力が続く時間には個人差もありますが、長い人でもせいぜい30分といったところでしょう。ですから仕事に取りかかって20~30分がたったら机から立ち上がって軽くストレッチをし、もう一度丹田呼吸を行って仕事に戻るのが効率を上げるコツだと思います。

集中できる時間を延ばすためにストップウオッチを利用するのもいいでしょう。仕事に取りかかる前にストップウオッチを押し、集中力が途切れたらストップウオッチを止める。自分が集中していた時間が数字で把握できるので、次は数字を延ばそうという意識が働いて、時間が少しずつ延びていきます。

このように集中する、没頭するという状態を生むには、精神論ではなく環境や身体感覚から入っていくのがいちばんです。じつは最近、ハウスメーカーと共同で「集中できる机」を企画しました。四角い机の一辺を凹型にくり抜いて体がすっぽり机にはまるようにし、30分の砂時計を取りつけたものです。

この机に向かうと肘のあたりまで机に包まれるような格好になり、余計な情報を遮断するのに都合がよいのです。もっと手軽に始めるなら、机の周囲に本を積み上げて壁にするだけでも同様の効果が期待できるでしょう。

齋藤 孝●明治大学教授


1960年生まれ。東京大学大学院博士課程修了。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。深い呼吸の力により集中力を取り戻すための方法を説く『呼吸入門』など著書多数。近著は『坐る力』『新訳 学問のすすめ』など。
(石田純子=構成 相澤 正=撮影)