藤田 剛(日大ラグビー部FWコーチ)

ふじた・つよし
1961年、大阪府生まれ。大阪工大高、明治大学卒。明大では1年からレギュラー。大学選手権優勝2回。大学2年時の80年に日本代表入り。89年、スコットランド戦初勝利時の日本代表メンバー。大学卒業後、日新製鋼、日本IBMを経てクボタへ。日本IBMでヘッドコーチ(HC)、クボタで監督を経験。2006~09年と明治大学ラグビー部HC、監督。現在はクボタ勤務。

この存在感はどうだ。秩父宮ラグビー場のフィールド横の日本大学ベンチ。かつてラグビー日本代表の名フッカーとして鳴らした藤田剛がでんと立っている。

あれっ。明治大学OBなのに……。そんな心の狭いことは言いなさんな。明大ラグビー部のヘッドコーチ、監督を歴任した後、3年前から、日大ラグビー部のFWコーチを務めている。要は大学ラグビー、いや心は日本ラグビーの強化にのみ向かっているのだ。

古豪復活を期す日大は今季、リーグ戦グループで法政大学に続き、拓殖大学も倒した。終盤の猛反撃をかわした。

「やっと勝ったなあ」と、藤田は人懐っこい笑顔を浮かべる。「チームを勝たすため、いろんな手段を選んでいるけど、そんな手段もたくさん与えられないからなあ」

仕事は、クボタの水・環境営業推進本部の担当部長。多忙の合間を縫って、週に2~3回、ボランティアとして日大FWを指導している。何を? と聞けば、当たり前のことを聞きなさんな、といった感じで言われた。

「やっぱりセットやな」

ラグビーでセットとは、ゲームの基本となるスクラムとラインアウトを指す。藤田は現役時代、世界に通用する名フッカーだった。スクラムのカナメだったからだろう、スクラムにはこだわりがある。

「スクラムというのは、一番相手にプレッシャーをかけることができる。8人がまとまることで、プレッシャーのかかり方が倍増するよ。まずはコトバでスクラムの大切さをわかってもらって、あとは練習でとことん追い込むんだ」

例えば、本番さながらの8人対8人のスクラム練習を坂道で組ませたりもする。坂の下の8人はたまらない。かつて「親に見せられない練習」と漏らしたこともある。きついと、互いのバインド(結束)が固まり、姿勢が低くなる。基本である。

正直言って、明大FWと比べると、選手の素質は劣るだろう。だからこそ、基本を徹底的に伝授し、練習と意識でカバーさせるのだろう。モットーが、明大の北島忠治監督(故人)からたたき込まれた「前へ」の精神。

日大ラグビー部員にも、「前へ」の大切さを教える。「前へ」は、プレーだけでなく、生き方にも当てはまる。

「どんなに苦しい時でも、前へ突き進んでいく。そうすると、周りからサポートがくるんだ。それが大切。1回下がると、もうアウト。下がったらアウトや」

日本代表のキャップ数(テストマッチ出場数)が「32」。大学時代、筆者は対戦したことがあるけれど、藤田は強くてうまくて、プレーに信念を感じた。前へ、前への。

「ははは。いまはラグビーの素晴らしさを若者や子どもたちに伝えたい。それだけや」

有言実行の52歳。家族サービスをうっちゃって、週末はラグビー場に通うのである。

(『ラグビー魂』編集部=写真)
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