「善意」が仇になることも

目先の「善意」が生むリスク。

経営者としては、会社が破産するとしてもこれまでお世話になった親密な取引先や金融機関、苦楽を共にした役員などに対して、破産手続きの前に少しでも恩返しをしておきたいという誘惑にかられることもあるでしょう。その誘惑に負けて、特定の債権者だけに対して債務の支払いをしてしまうことも十分考えられます。

しかし、その結果、相手方に迷惑をかけることになり、また、円滑な破産手続を阻害することになる場合もありますので、注意が必要です。

否認制度は何のためにあるか

破産法には、破産手続開始決定前に実行された債権者を害する行為を失効させて、管財人が財産を取り戻すことができる「否認制度」があります。

裁判所から破産手続開始決定が出ると、債務者は自由財産を除く財産を自分で自由に処分できなくなります(管理処分権の失効)。逆にいうと、破産手続開始決定前には、破産する会社や経営者はその財産をどのように処分しようと自由であるというのが原則です。

しかし、その原則を貫くと、債権者全員に分配されるべき債務者の財産が減少してしまいます。そこで、多くの債権者を害することを防止するための否認制度が設けられているのです。

代表的な否認対象行為としては、役員や近親者への債務の返済、会社財産を換金した代金を使ってしまったり、隠してしまう行為、取り立ての厳しい貸金業者や親密な取引先への期限前弁済などがあります。