「おまえ昔のままだな」は決して褒め言葉ではない

倒産、リストラは「カツラ」を被るビッグチャンスである!<br><strong>クリエーター 箭内道彦</strong>●1964年生まれ。東京芸術大学美術学部デザイン科卒。博報堂を経て、「風とロック」を設立。近著に、『サラリーマン合気道』。
倒産、リストラは「カツラ」を被るビッグチャンスである!
クリエーター 箭内道彦●1964年生まれ。東京芸術大学美術学部デザイン科卒。博報堂を経て、「風とロック」を設立。近著に、『サラリーマン合気道』。

いつカツラを被るか、だと思うんです。脱ぐ、でもいいんですけど。

人生をゼロからやり直す。リセット力ですね。会社勤めの人が、突然カツラを被るというのはとても難しいですよね。学生時代、夏休み明けに同級生の女の子の顔が変わっていたことがあって。目を二重にしたんですね。久しぶりだと、それほど劇的な変化には見えない。彼女なりにタイミングを考えたんでしょう。

なにかを変えたいと思っている。でも、なかなかできない。自身の問題としてだけではなく、周囲を慮ってしまう優しさがあるからです。リセットすることは自分の過去を捨てること。そのときに、周囲を裏切ったような気持ちを抱いてしまう。同窓会などで小中学校の友人に会って、「おまえ、変わったな」と言われるのと「おまえ、全然変わらないな」と、どちらが褒め言葉に聞こえますか。たぶん「変わらない」のほうでしょう。変わらないことって安心感を与えるんですね。

ぼくはリセットが大好きで、昔の友達に会うのが大の苦手。必ず「変わったな」と言われてしまう。「昔はすごく純粋だったよな」とか(笑)。

リセット力を高めるには、まずは外見。髪形でも服装でも、外見を変える。手っ取りばやいことがいい。さっぱりと坊主頭にしてもいいし、渋めの好みを原色ベースの明るい服装に変えてもいい。周囲に宣言する意味が大きいんです。中身、性格や行動を変えるというのが日本人の精神性に合っているのかもしれませんけど、リセット力がない状態でいきなりやるのは難しい。それまでの人生は尊いものだから、きっぱりリセットしにくいんでしょう。「ここまで頑張ってきたんだから、もったいない」なんて思っちゃう。

「もったいない」という言葉はリセットの大敵です。決して自分で言ってはいけません。他人に言わせる。「博報堂に入ったのに、なんで辞めちゃうの。もったいない」と驚かれると、いい気分です。かなり思い切ったんだなって思えて。

年間8万8489人が失踪者になっている!
図を拡大
年間8万8489人が失踪者になっている!

皆さんもそうです。リセットするチャンスは案外多いはずなのに、それをあまり自覚してないんですよ。小学校から中学、中学から高校、そして大学に進んで上京する際には、短いスパンでリセットのチャンスが訪れていた。就職するとチャンスが激減するようにも思えますが、異動だの長期休暇など、ちょこちょこあったはずなんです。チャンスをつかまえる自覚があれば、寝て起きるだけでリセットできます。

会社が倒産したり、リストラされてしまったとします。これはもう、カツラを被るビッグチャンス(笑)。「もったいない」もヘチマもない。強制的に周囲の環境が変わるわけですから。劇的にリセットしても誰からも文句が出ません。

失敗というのはほとんどが自滅です。ダメだと思うからダメになる。リセットしてゼロからやり直せば、なんらかの形で成功します。固執するよりもリセット力を高めるほうが絶対に得です。20年勤めた会社をリストラされても、培った力がある。それまでのジャンルのエッセンスを別のジャンルに持ち込めて、新しいことを熱意を持ってできる。リバウンド力とでもいうんでしょうか。

再就職活動で苦労していても、それはリバウンド力を高めている途中なんです。自分の姿をドキュメント番組が密着取材してると想像してみるのもいいでしょう。リバウンド力を高めて、人生でもうひと花もふた花も咲かせましょう!

(須藤靖貴=構成 吉次史成=撮影)