法的にも強制力はなし簡潔に断って立ち去る

図:警察が「質問・尋問」を行う根拠と対処法はこれだ!
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図:警察が「質問・尋問」を行う根拠と対処法はこれだ!

突然、警察官に「話を聞かせてください」と呼び止められたらどうすべきか。裁判官や弁護士として多くの刑事事件にかかわった経験からいうと、任意同行は断ったほうが身のためだ。

警察官は、警察官職務執行法(警職法)2条により、停止させての質問や警察署などへの同行を求めることができる。しかし同条3項には、本人の意に反して連行できない旨が定められている。つまり法的には、逮捕されない限り、任意同行に応じなくても問題はないのだ。

特に任意同行に応じて警察署に入った場合は、実質的に身柄を拘束されて自由を失うリスクがある。裁判官時代、任意同行で署に連れてこられた人が、尿検査の結果、覚せい剤の反応が出て起訴された事件があった。警察は任意だと主張したが、数時間にわたり取り調べを受け、トイレにも行かせてもらえず、逮捕と同じ扱いを受けていた。任意といいながら強制的に捜査をするのは違法であり、私は違法収集証拠だとして尿検査の鑑定書の証拠申請を却下した。しかし、これは稀なケースだ。裁判官の多くは警察の主張を信用し、証拠申請を認めてしまう。

事件とはまったく無関係の人が、任意であるにもかかわらず執拗な取り調べを受け、自白を強要されて冤罪事件へ発展する場合もある。署の中に一度入れば、あとは密室。違法な取り調べがあっても、それを後で証明するのは難しい。

逆に実質的に任意だったのに、後から逮捕が“つくられる”こともある。痴漢事件では、ホームで女性に呼び止められ、警察官に同行して署に行くと、そのまま勾留されることが多い。勾留の前には逮捕行為が必要で、任意ならいつでも帰れる。ところが、捜査機関は勾留のために、書類上「女性が現行犯逮捕して警察官に身柄を引き渡した」ことにする。実際は逮捕行為がなかったのに、いつのまにか逮捕されたことになっているのだ。

このように、警察は「任意」を拡大解釈して、あたかも強制力があるかのように装い、より違法性の高い捜査を行う場合がある。違法捜査から身を守るには、明確に逮捕されたのではない限り、任意同行は拒否したほうがいい。捜査協力するにしても、署には行かず、こちらで場所と時間を指定して話すべきだ。自宅に押し掛けられても入れてはいけない。別件逮捕の口実を与えるだけで、何もいいことはない。

任意で行われる職務質問も同様。下手に応じてカバンの中を見せると、「ペンライトは窃盗の道具に転用できる」「登山用ナイフは銃刀法違反」などと、犯罪にこじつけて余計なトラブルを背負い込まされる。なお立ち去るときは、体の接触に注意したい。2006年に刑法が改正され公務執行妨害に罰金刑(50万円以下)が加わり、いままで懲役または禁錮刑しかなかった公務執行妨害の適用のハードルが下がった。肩がぶつかっただけでも逮捕されかねない。押し問答はやめて、「任意ならお断りします」と簡潔に告げて立ち去るべきだ。

※すべて雑誌掲載当時

(構成=村上敬)