飲食店主と営業は「友だち同士の関係」

「大人の遠足や、頼むで内川さん」

「そんならやりましょうか、マスター。すぐに形にします」

(左)サントリービア&スピリッツ大阪支社第1支店部長代理 内川順一朗さん(右)川崎商店本町本舗大将 川崎和宏さん

大阪市中央区。いわゆる船場は、松下幸之助や鳥井信治郎を輩出した街として知られる。この一角にあるのが、鹿児島料理の居酒屋「川崎商店本町本舗」だ。大将の川崎和宏は、内川順一朗(サントリービア&スピリッツ大阪支社第1支店部長代理)に話しかけていた。2人は「友だち同士の関係」と川崎は言う。“大人の遠足”を企画したのは2012年2月。店の常連客を対象に、サントリーの京都ビール工場と山崎蒸溜所とを見学するという内容だった。「常連さんたちと盛り上がり、工場見学をしようとなったのです。費用は電車賃だけとしました」(川崎)。

そこで川崎は、サントリーの担当営業マンである内川を呼んだのだった。その日のうちに内川は、上司の小川浩司(同営業担当部長)に話を上げる。間髪をいれずに、小川は言った。

「それは面白い、すぐにやりなさい。万全の受け入れができるよう、工場サイドには私から言っておく」。ちなみに、飲食チェーンの担当者たち、他社ビールを扱っている飲食店関係者らを、営業マンが工場に連れていくことは多い。だが、居酒屋の常連客による工場見学など、ほとんど前例はなかった。だが、細かな前例にはとらわれずに、「やってみなはれ」とすぐに実行に移すのはサントリーらしさでもある。

内川は75年生まれ、大阪市出身。入社以来、飲食店を担当する業務用一筋の営業マンだ。一方、川崎は68年生まれ。鹿児島で郷土料理店を兄と経営していて、04年船場に同店を開いた。以来、ビールは一貫してサントリーを供している。

内川が前任者から引き継いだのは、10年4月。1つ懸案だったのは、川崎は高級ビールの「ザ・プレミアム・モルツ(プレモル)」ではなく「モルツ」を出していたという点。「モルツはよくできている。替える必要はない」という川崎の判断だった。前任者や内川が何度お願いしても、意思を変えなかった。