【5.セレンディピティ】目標途中にある「余計なもの」を追う

「ポスト・イット」のアイデアはこうして生まれた
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「ポスト・イット」のアイデアはこうして生まれた

「創造性」を考えるうえで、もっとも重要なのは「セレンディピティ」、つまり「幸運に出合う能力」です。

たとえば、3Mの「ポスト・イット」。今ではオフィスに欠かせないこの商品は、「セレンディピティ」から生まれました。接着剤の商品開発のための研究から、接着力が極度に低い試作品が出来てしまった。ところがある日、教会に行った一人が、聖書からしおりがハラリと落ちる瞬間を目にした。このしおりにあの弱い接着剤がついていたら……。その結果生まれたのが「ポスト・イット」です。

3Mの逸話は象徴的ですが、この類の話は枚挙にいとまがありません。グーグル・ストリートビューや、ソニーのプレイステーション。どれも本来の業務からは外れたところから、創出されたアイデアばかり。ノーベル賞を受賞するような研究も「セレンディピティ」に導かれたものが非常に多いのです。

ではビジネスの場において「セレンディピティ」に辿り着くにはどうしたらいいのでしょう。それには「8割2割の法則」を定着させることです。つまり、本業に8割の時間を傾け、残り2割は自分の興味のある課題に取り組む。グーグルにおける「20%ルール」は有名です。

企業としては、もちろん本業は大切です。売り上げもあげなくてはならない。しかし、すべてが効率最優先になってしまうと、結果としてその企業の伸びしろを、自ら限定してしまうことにもなりかねない。社員に2割の自由を認めることで生み出される「創造性」もあるのです。

大切なのは「集中とリラックス」のバランスです。アイデアは、基本的に脳がリラックスしている状態でないと、生まれません。脳には「デフォルト・ネットワーク」と呼ばれる回路があり、脳内をグルグル回りながら、何か面白いことがあるとピックアップしてくる働きを持っています。しかし、そのネットワークはリラックス状態でないと機能しないのです。たとえば、何時間も何時間も考えぬいた末に疲れ果て、お風呂につかった瞬間「ひらめいた!」となるのが「デフォルト・ネットワーク」の効果です。

もちろん、そのためにはただボーッと遊び呆けるだけではなく、8割は自分に負荷をかけて学んだり熟考する経験が必要です。けれども、その他の2割の時間を持つことで、無意識的にネットワーク回線がつながり、「ひらめく」のです。

それこそが「創造性」の発露であり、その意味では、妙に神秘化せずとも、誰にでも「創造」する能力や機会は備わっているのです。これからの時代、日本の政治も社会も経済も、立て直すには「創造性」しかないと私は思っています。

(三浦愛美=構成 的野弘路=撮影 ライヴ・アート=図版作成)