この連載の著者・島田さんはたった一人で出版社「夏葉社」を始めた。つくった本を抱えて全国の書店を回ってきた。日本中の「町の本屋さん」が登場する『本屋図鑑』誕生の背景には、島田さんのいくつかの思い出がある。

生きる動機

栃木県栃木市の出井書店(『本屋図鑑』より。画・得地直美)。

『本屋図鑑』をつくるために、半年をかけて、全都道府県の本屋さんを自分の足で訪ね歩いた。ぼくはなぜ、この本をつくりたい、というか、「つくらなきゃ!」とまで思っていたのか。

話をかなり前に戻すと、そもそも、編集をしたことすら、なかったのである(数ヶ月だが、書店の営業経験はあった)。

そうした心もとない経験で、どうして4年前に出版社を立ち上げたのかというと、これは、もう、あのころは追い込まれていたんです、と暗い顔で述べるほかない。

20歳くらいから、作家になりたかった。

来る日も来る日も、本を読み、小説を書いていた。大学を卒業しても、就職をしなかった。分厚い本を読むことのほうが、大切だと信じていた。ある日、才能がないとわかった。10年が過ぎていた。30歳を越えると、採用してくれる会社なんかなかった。

そんなとき、親友だった従兄が事故で死んだ。毎日のように届く不採用の通知と、従兄のいない世界。ぼくも死にたくなった。実際、親しかったもうひとりの友人は、数年前に死を選んでいた。ぼくも、社会に対して、なんらかのツケを払わなければいけなかった。

2009年に出版社をやろうと決めたのは、偶然、一編の詩に出会ったから。嘘のような話だが、本当である。その詩によって、救われたというのではない。死別した人を慰めるその一編の詩を、悲しんでいる人に届けたい。それが、生きる動機になったのである。

お金がほしいわけではなかった。立派な本をつくりたいというわけではなかった。

ぼくは強く生きてみたかった。