「あの頃はよかった」が口グセのバブル上司、「だよね~」と答える平成部下……。相容れない理由を、マナー書の歴史とともに辿っていく。

1970~:先輩を手本に基盤づくり

高度経済成長期を経た1970年代、日本の会社員には終身雇用制度の下、給料は右肩上がりの安定した将来が約束されていた。

この時代のビジネスマナーは、ある意味型どおり。「会社はこういうもの」「社員はこうするもの」という、どの業界の会社にも当てはまる、ステレオタイプのマナーが一般的。それを真面目に踏襲しさえすれば、とりあえずはいっぱしの社会人と認められたのである。

エリエス・ブック・コンサルティング代表取締役 土井英司氏

「70年代のビジネスマナーのキーワードは『社員』。会社のために社員はどうするか、社員ならばこうするべきという考え方が基本です。ベストセラーからもわかるように、会社が理想とする社員の人間像を学びとりたい人が多かったのです」と、ビジネス書評家の土井英司さん(エリエス・ブック・コンサルティング代表取締役)は語る。

60年代中盤から70年代はじめに社会人としてスタートを切った団塊世代、および50年代生まれは、会社以外でも上下関係がはっきりしたルールの下で成長している。家では父親が絶対権力を持ち、隣近所には社会マナーに厳しい他人も存在した。幼い頃から知らず知らずに目上に対する言葉遣いや接し方を学ぶのも当然だ。

だが2000年代以降、社内の年功序列は崩壊。年齢差の大きい同僚や部下も存在する。20代の若手社員は、タテよりもヨコのつながりを大切にしてきた世代だ。職場でもマナーの捉え方は大きく変化し、お互いの常識はそれぞれにとっては非常識にもなりかねない状況にあり、社員間にギャップが生じるのは否めない。

「日本流の根回しや暗黙知でのビジネスは50歳以上ならではのテクニック。取引相手などもそうやって開拓しながら会社を大きくしてきたという自負もあるはず。けれど『俺がそうやってきたから、おまえもやれ』では、今の若い世代には通用しないのです」。経営・人事戦略コンサルタントの高城幸司さん(セレブレイン代表取締役社長)によると、社内ルールはもとより、上から目線での接し方では、今の20代、30代前半の若手社員とはいつまでも相容れられない。

「70年代のビジネスマナー書は、社員を『躾る』という、上からの視点。現在では違和感を感じる人も多いでしょう」(土井さん)

●作家・山口瞳がもの申す、新入社員への教訓
『新入社員諸君!』
山口瞳著/角川書店
「教訓」好きの著者がしたためた「サラリーマン論」。働く女性をBG(ビジネスガール)と呼んでいるのも今では新鮮。上からもの申す語り口と、「会社で麻雀をするな」など、現代ではありえない当時の感覚もおもしろい。

●サラリーマンのA to Zをこまやかに指南
『サラリーマン・OLのしつけ学』
中村孝士著/日本工業新聞社
挨拶からはじまり、仕事の仕方、社内の女性の扱い方、果ては家庭でのふるまいなど、サラリーマンとしての生き方のノウハウを、戦前生まれで軍隊も経験した著者が徹底指南。OLの呼称が浸透したのもこの頃。