不注意な部下を萎縮させずに叱る
叱り方は難しい。一歩間違えると部下を萎縮させてしまう場合もあるからだ。そんなときもユーモアが効果を発揮する。
例えば、出したばかりの指示内容を忘れた不注意な部下を叱る場合はどうするか。田中氏に実例を示してもらった。
「さっき言ったばかりだろう!? もし今後も同じミスをするようなら、僕は24時間体制で君のそばにいなくちゃならない。常に隣に座るよ。夜は添い寝するよ。そんなの嫌だろ? 2度とやるなよ」
最初の「さっき言ったばかりだろう!?」と最後の「2度とやるなよ」が、一番伝えたいシンプルなメッセージだ。でも、これだけでは角が立ちすぎると感じるとき、途中に「もし同じミスをするなら~」で始まる極端な例え話を入れることで、小さな笑いを取って空気を和らげる。しかも「添い寝したくなるほど、おまえが心配なんだ」という親心も伝えることができる。
「職場におけるユーモアの最大の効用は、場の緊張感を緩和させることです。そのうえで、叱咤や激励など本来の目的を伝えることが大事。お笑い芸人ではないので無目的な笑いを取る必要はありません」
軽い叱責を加えたいときは「あからさまな嫌みを言う」という方法もある。シニカルな性格だと自認する田中氏。行き先ボードをちゃんと消さない部下を発見すると、「○○さんの行き先ボードを上司の僕が消しまーす!」と公言して席を立つ。すると、当該の部下が「あ、すみません!」と飛び出してきて、慌てて消す。職場には笑いが起きる。部下は頭をかきながら反省する。後腐れはない。
「××さんの机まわりを部長の私が片付けまーす!」
「△△さんのご到着を社長の私が首を長くしてお待ちしていました!」
明るく大きな声で言う限り、広く応用できそうなユーモア手法である。
成城大学卒業後、サントリーに入社。健康食品事業部時代にスタートした週刊新潮の連載「窓際OL」シリーズは10年目に突入。特技なし、酒量はウイスキー1本。著書は、祖母で歌人・斎藤茂吉の妻の輝子の生涯を描いた『猛女とよばれた淑女』『窓際OL人事考課でガケっぷち』ほか。
1976年、東京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、野村証券を経て、2001年リンクアンドモチベーション入社。2010年より同社の研究機関であるモチベーション研究所の所長を務める。モチベーションの源泉は「パン+α」。