それに加えて、相手からの信頼を得る能力も並ではなかった。といっても、実は私は万人から信頼を寄せられるようなタイプではない。
日本法人のトップは、社員の心をつかみ、その集団を前へ動かすという役割を果たさなければならない。また、日本人の顧客の心をつかんで大きな客に育てるとともに、実績を積むことで、さらに次の顧客につなげるようにしなければならない。
そのためには、相手の心を開かせて、痛みを伴う大改革を実現することが必須である。そこまで踏み込むことのない「無痛改革」では、たいした成果を生めないからだ。
「痛み」とは、たとえばどんなものか。実は関与先の社長に辞めてもらったことがある。全部で4人。
「あなたは本当に会社をよくしたいのか」
「もちろんだ」
「それなら、私は奥の手を知っている」
「ぜひ、教えてくれ」
「あなたが社長を辞めることだ」
こう言うと、相手は絶句する。
「絶対に辞めろと言っているわけじゃない。だが、本当にあなたにその気持ちがあるなら、私はそれがいちばんいいと思う」
こう説得するのだ。もちろん理由を詳しく説明するが、当時の私はこうやって社長当人に退任を迫るところまでやっていた。そこまで踏み込むコンサルタントはほかにいなかったと思う。
当時の私は「相手がどう思うか」よりも、自分の使命を果たすことだけを考え、そのことに全力をあげて取り組んでいた。馬鹿だと言われ、嫌われることもしばしばだった。
しかし、それゆえに、ごく少数の経営者からはきわめて厚い信任をもらっていた。
「あいつは絶対に裏切らない。私利私欲がなく、自分の利益で発言しないし、行動しない。あくまでもミッションを第一に考えている。だから大いに信頼に値する」
言葉にすれば、こういうことだったと思う。
ここまでの信頼関係を築くことができ、実績を積んでいくと、会社は勝手に私の年俸を増やしてくれる。こちらから「給料を上げてくれ」と交渉する必要はまったくなかった。