上司に認められたくてヨイショをしても、それを嫌う気質もあるので、行き当たりばったりに、褒めればよいというわけではない。その人の気質を十分に知ったうえで付き合っていくべきだろう。それは、県民性に限ったことではない。さらにいえば、上司だけでなく、自分の気質も自覚したほうがよいようだ。
「『難波っ子』『大阪人』と呼ばれる生粋の大阪の人間は、見栄を張らずに本音で生きる人たちです。彼らは余計な気遣いやムダを嫌います。本音を出し合って話し合うのが合理的だと考えるのです。ところが、他の地域の人が、『大阪人』の気質を理解していないと、疎まれてしまうことがあります。自分の個性を表に出して、堂々と主張することは大切なことですが、自分の気質を理解して、少し抑えめにすることが、対人関係をよくするコツかもしれません」
東京は、地方出身者の集まりでもある。上司の出身地がわかっている場合、県民性を調べておけば、「こういう反応をするかもしれないな」というふうにあらかじめ意識できる。
「普段は方言や習慣を隠していても感情が高ぶったときに、県民気質も含めたその人が本来持っていた気質が表れやすいものです。県民性は、コミュニケーションを円滑にするための1つの道具です。決して偏見として捉えることなく、日本の地方史・日本史に興味を持つ1つのきっかけとして、楽しみながら学んでほしい」
とにかく上司の態度がちょっと特徴的だなと思ったら県民気質を調べてみる価値はある。今後の上司との関係を改善するヒントが得られるかもしれないからだ。
1950年、山口県生まれ。79年、東京大学大学院国史学博士課程を修了。文学博士。歴史哲学や比較文化的視点から執筆活動を展開。著書に『知っておきたい日本の神様』ほか多数。