たけしが毒舌でも愛嬌たっぷりな理由

そんな2人とは対照的なのが、ビートたけしさんです。“カサカサ”“ザラザラ”の俗にいうハスキーボイスが非整数次倍音の特徴ですが、彼の声はまさにこれにあたります。

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非整数次倍音

非整数次倍音の声は親密性や情緒性に富んで、やさしい印象を与えます。たけしさんといえば毒舌で有名ですが、その声質が毒を和らげて笑いに変えてしまうというわけです。実際、タモリさんも「たけしは何を言っても平気だけど、俺が毒のあることを言ったらクレームが来る」と言っていました。

歌手の森進一さんもまた、非整数次倍音の強い声の持ち主です。その個性的な声を真似て芸人さんが「森進一です」と言うだけでどっと笑いが起きます。でも、名前を言っているだけなのに、なぜおかしいのか不思議に思いませんか。実はこれ、倍音による効果。

非整数次倍音には「重要だ」と注意を喚起する効果があり、「森進一です」というフレーズを聞くと頭の中では「重要だ!」という反応が起きる。ところが、実際には名前しか言ってないわけで、そのギャップに笑いがこみ上げてしまうのです。

橋下大阪市長のユニークな声質

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倍音ダイアグラム

ところで、先ほど人の声は整数次倍音と非整数次倍音に分類できると言いましたが、下のダイアグラムを見てわかるように両刀遣いも存在します。その筆頭が美空ひばりさん。倍音に注目して彼女の歌を聴くと、歌謡界の女王と言われる理由がよくわかります。

たとえば、代表曲の「川の流れのように」では「知らず~知らず~」と情感たっぷりの非整数次倍音で歌い出し、聴き手に親近感を与えます。それが、サビの「ああ~、川の流れのように~」に入ると、整数次倍音を漲らせて一気に神へと駆け上がる。この振り幅こそ彼女の大いなる魅力なのです。