5W1Hを聞くように写真を分析する…模範解答はこれだ

「人と人は、外見(肌の色)や宗教、人種、性別などに関係なく、互いを認めようとすることが大切、という多様性の重要さをメッセージとして子供の言葉で伝えるのが小論文の出だしの基本構造になるでしょう。時事性を盛り込んで、ウクライナとロシアの戦争、パレスチナとイスラエルの紛争といったことに当てはめて横展開させてもいいかもしれません。

模範解答の中で触れているのは、『ここは学校であり、いじめや差別はなくさなければならないと教わった場所』であること、また『理科の授業で、ある環境の中ではできるだけ違った個体と交わることが生物の進化のうえでも大事だと学んだ』ということです。これにより、受験生本人のポリシーや授業で習得した内容を論文に盛り込むこともできます」

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こういった一見、変わり種のように見える出題も、実は医師としての適性を見ていると七沢さん。

「この順天堂大のような写真問題に相対したとき、受験生が最初にやるべきは“5W1H”の把握です。『(写真に出てくる場面の)ここはどこ? 何が写っている? 季節や時間はいつ? 何が起こっている?』……。ビジュアル情報を漠然と眺めるのではなく心の中で言語化する。そうやって整理しながら、私的な体験・意見を交えて論述するのです。考えてみれば、この写真の読み取り作業は、医師が初めての患者に行う診察と同じなのです」

つまり、診察室に迎えたときに医師が必ず実施する「今日はいかがされましたか?」から始まる一連の聞き取り。顔色を見つつ「(不調は)いつからですか? 体のどのあたりが痛みますか?」などと質問し、状況を細かく把握。必要であればレントゲンや血液検査などもする。そうやって正確な診断をする。

患者とどれくらい有意義なキャッチボールができるか。順天堂大の写真問題は、限られた時間内でそうした医師に必須な観察力や情報収集力を発揮できるか試しているのだ。

「さらに写真を見ながら想像を巡らせてほしいのは、撮影時点だけでなく、その前後の時間のこと。患者が診察に来る前、また来た後の行動などを推察したりして今後の診察プランを構築するのと同じです。

24年度の写真の場合、白人と黒人の子供2人の過去と未来に思いをはせてみるのです。今はまだ少しぎこちない関係でも、10年後は唯一無二の親友になっているかもしれません。そうしたポジティブな状況に導いていけるような視点も小論文に盛り込めると評価が高まるかもしれません」

【順天堂大の出題の模範解答例】

大人たちが大変な苦労をして、白人と黒人の数を半々にしてくれました。そのおかげでマジョリティーとかマイノリティーという区分がなくなりました。それはそれで良かったのだと思います。なぜなら、いじめや差別はマジョリティー側から見た「自分たちとは違う少数派」に対して犯される態度や行為であることが多いからです。

ここは学校です。僕たちが大人になって社会に出ていくために必要なことを学ぶ場所です。勉強する目的は、テストでいい点を取ったり、競争に勝つことだけではないはずです。何をなぜ学ぶのかを学ぶ場でもあるはずです。

「なぜいじめや差別がいけないのか」は、ただ単に多数派による弱いものいじめが、相手がかわいそうだからとか、その行為自体が卑劣だから、だけではないと思います。

この前、理科の授業で生物の多様性の勉強をしました。生物が生き残るためには、環境に適応しなければなりません。環境に適応するためには、遺伝子が変異して以前は適応できなかった生物の中に適応できる遺伝子を持つものが生まれることが必要だと学びました。現在の環境で強い個体でも環境が変われば弱くなることも多いはずです。生物ができるだけ違った個体と交わることが必要だとすれば、人間は遺伝子の交雑だけでなく、情報を伝達し合い、互いに協力することができる種です。

だから、人と違うことは攻撃の対象にすべきではなく、大切にするべきだということを理科の授業から応用できます。また、社会の授業では必ずしも多数決が集団を維持するための唯一の方法でなく、時には少数派の意見も尊重する必要があることも学びました。

僕たちは、自然界の法則や、人間社会の仕組みや課題、環境など、人間がこの世で生き残るために必要なさまざまなことを学ばなければならないと思います。そのために、僕たちは「何のために学ぶのか」を学ぶために学校に通い、そして、未来の人間社会をより良くするために勉強していきたいと思います。