マスメディアとネットは対立関係ではない

「マスメディアの敗北」と「SNSの勝利」という二項対立は、前者=正統派vs.後者=邪道、という図式に基づいている。もっと乱暴に言えば、前者=思慮深さvs.後者=浅はかさ、との見方と同じである。マスメディア側による、世論をつかみ損ねた悔しまぎれの負け惜しみにすぎない。

「本来なら、マスメディアのほうが、SNSよりも優れているはずなのに、なぜ、できなかったのか」
「それは、得体の知れないSNSに県民が騙されているからではないか」

そう言わんばかりの感情が、「マスメディアの敗北」という表現に込められている。

インターネットが普及して30年近くがたつ2024年になってなお、マスメディアとネット(SNS)が対立する、と考えている。それこそが、世論に対する「マスメディアの敗北」にほかならない。世論をとらえられず、いまだにネット(SNS)を見下している。それこそが「マスメディアの敗北」ではないか。

だから県民による斎藤氏への支持の背景を、どのマスメディアも解き明かせていない。どの新聞を読んでも、どのテレビ番組を見ても、なぜ、この2カ月で、民意が大きく動いたのか、わからない。

いや、そもそも、2カ月前ですら、兵庫県の人たちは斎藤氏を支持していたのかもしれないのだが、マスメディアは検証も分析もしてくれない。

それこそが「マスメディアの敗北」なのである。

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何が兵庫県民を動かしたのか

そして、この意味での「マスメディアの敗北」が、兵庫県民を斎藤氏支持へと、大きく駆り立てたのではないか。

いわゆる「内部告発文書」の発覚以降、半年近くにわたって、特に関西の新聞とテレビ番組は、斎藤氏を糾弾してきた。斎藤氏の「パワハラ疑惑」を大きく取り上げ、彼の姿勢を強く非難してきた。

もちろん、権力の監視はマスメディアの重要な役割だとされている以上、適切な批判は必要だろう。実際、斎藤氏は、当選から一夜明けた11月18日の記者会見で「私自身はメディアの皆さんとはこれまで通り、しっかり、もちろん県政の内容を発信していただける大切な連携しなきゃいけない皆さんですから、これからも一緒になってやっていきたいなと思っています」と発言している

こうした斎藤氏のスタンスに比べて、マスメディアは、どうか。

斎藤氏の街頭演説に、この2カ月の間に、徐々に聴衆が増えていく様子を目の当たりにしていたはずなのに、その要因を「SNSの勝利」としか受け止められないのは、なぜなのか。その姿勢こそ、つまり、彼を見ていない、見ようとしていない態度こそ、兵庫県民を動かしたのではないか。