AKB48は「3:2の法則」で稼ぐ

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牛丼1杯(並)の純利益(PIXTA=写真)

みなさんは牛丼の原価をご存じでしょうか。私の分析では大手牛丼チェーンY社の牛丼(並)380円のうち、経費は238円で、食材費は137円。これらを差し引くと、利益はわずか5円です。これではほとんど利益がない気がしますが、実はY社は莫大な利益を生む人気商品を持っています。それはトッピングの卵です。卵の原価は1個10円以下で、価格は50円。粗利40円以上です。この高収益商品を、Y社は、外食産業の中でおそらく日本で一番販売しています。

ならば卵だけを売ればいい? それでは、消費者は見向きもしてくれないでしょう。卵は、あくまでも牛丼のついで。利益率の低い集客商品(牛丼)で多くの顧客を呼びこむからこそ、利益率が高い収益商品(卵)も売れるのです。

集客商品と収益商品をうまく組み合わせた例はほかにもあります。演歌歌手が紅白歌合戦に出るのもそう。紅白のギャラは大御所でもそんなに高くないと言われています。派手な衣装をこしらえれば、それだけで赤字です。にもかかわらず多くの歌手が紅白に出たがるのは、全国各地で行うコンサートやディナーショーへの集客が期待できるから。地方では紅白のブランド力は健在。「紅白歌手が、あの衣装で」と宣伝すれば、ディナーショーの高いチケットも売りやすくなる。これも集客商品(紅白)と収益商品(ディナーショー)の組み合わせで利益を挙げているわけです。

アイドルグループのAKB48も、2つの組み合わせで展開しています。センターで歌うメンバーは集客商品なので、ファン獲得のためメディアに積極的に露出させ、それなりの営業コストもかけていると思われます。ただ、芸能事務所から見て本当においしいのは後ろで踊るアイドルたち。露出が多いわけでもないのにそれなりのギャラが配分されるので、収益性が高い。具体的に名前をあげると……、いや、それはやめておきましょう(笑)。

もちろん集客商品と収益商品を乱暴に組み合わせればいいというものでもありません。スーパーのチラシを分析すると、特売品などの集客商品と、値引きしていない収益商品の割合はおよそ3対2。これは店頭も同じで、特売のお肉が3、横の焼き肉のタレが2というバランスで売れるようにうまく陳列されています。

ではなぜ3対2なのか。集客商品がそれ以上多いと利益率が落ちてうまみがなくなり、逆に収益商品が多いと集客が落ちて売り上げが減るからです。売り上げと利益を最大化できる黄金比が3対2というわけです。

優秀な営業マンは3対2の法則を踏まえて営業活動をしているはずです。営業としては利益率が高い商品を売りたいところですが、集客できる商品を前面に出して客寄せしたうえで、顧客を収益商品に導く。これがトップ営業のテクニックです。

※すべて雑誌掲載当時

流通ジャーナリスト 金子哲雄
1971年生まれ。慶應義塾大学卒業後、ジャパンエナジー(現・JXホールディングス)を経てコンサルタントとして独立。現利主義(現場に利益あり)を信条に、24時間密着取材を得意とした。独自の発言で注目を集め、各メディアや講演会で活躍。『値段のカラクリ』など著書多数。
(村上 敬=構成 石橋素幸=撮影 PIXTA=写真)
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