酒浸りの父と、発達障害疑いの母

田中恭子さん(50歳・仮名)は、「親とのことを解決したい」と私のカウンセリングオフィスに来談しました。

彼女はこれまでの人生を一気に話しました。

「家は居心地が悪かったです。母は専業主婦だったのですが、家の片付けとかも苦手で。それで、父が『ちゃんと掃除しろ!』と注意していました。そのせいで機嫌を悪くした母は私に当たってくるので、私が家の掃除をするんです。要望が通らないと金切り声を上げて騒ぐような人なので、仕方がなく私は母の言うことを聞いていました。掃除しようにもどこから手をつけていいのかわからず、半べそで家の中をうろついていると、父が近寄ってきて『いっしょに片付けような』と言ってくれたのを覚えています。普段はお酒ばかり飲んでいる父でしたけど、時折優しいことがありました。

いま思えば母には発達障害があったのかも。料理もダメで、生焼けか焦げたハンバーグしか作れなかったんです。お友達の家に遊びに行ったとき、その子のお母さんが夕食にハンバーグを作ってくれたんですけど、『本物の』ハンバーグは、こんなに美味しいんだとびっくりしたのを覚えています」

相談者は「アダルトチルドレン」だった

私は彼女に、いわゆる機能不全家族で育ってきたのだろうと見解を伝えました。

共感不全のある母親と、依存症問題を抱える父親です。

機能不全家族とは、家族としての機能が十分に働いていないことを指します。現在はより広い意味でも用いられるようになりましたが、もともとは嗜癖臨床の現場で使われていた用語です。その中でも、特にアルコール問題を抱える父親とその妻との間に生まれた子のことを「アダルトチルドレン」と呼ぶようになりました(クラウディア・ブラック著『私は親のようにならない』誠信書房)。

この機能不全家族では児童虐待が起きていることも稀ではなく、田中さんもその被害者であることは間違いないでしょう。

しばらくは、大変な家庭に生まれ育ってきたことを共有するカウンセリングが続きました。