では今後はどうなるでしょう。
私が予測するに、これからはさらにそこに「ネットワーク性」が加わってくると思います。
過去数カ月にわたって私が購入した本やCDは、そのほとんどがツイッターを通じて人から勧められたものです。いわば口コミですが、より進化した口コミです。従来の口コミはせいぜい知人5人くらいに伝える程度でしたが、それがいまはネットワークによって瞬時に世界中に広めることができる。
ソーシャルフィルタリングというのでしょうか。自分でグーグル検索するまでもなく、お勧め情報が向こうからやってくる時代です。それを可能にしたのがフェイスブックであり、ツイッターなのです。
この「ネットワーク性」にもうひとつスパイスを加えるならば、それは「生の体験」です。10年のクリスマスに、ニコニコ動画は初のミュージカルを行いました(ニコニコミュージカル)。銀座の博品館劇場で、ホリエモン主演でクリスマス・キャロルを上演し、その舞台をネットでも生中継。ネット版のチケットは1000円で発売されました。
ネットなのに生。ユーストリームもそうですが、このリアル感はバーチャルな時代だからこそ、逆説的に価値を高めるのです。「定番性」×「サプライズ」、そしてそこに生の「ネットワーク性」を掛け合わせたものが、これからの売れる商品の法則になっていくのだと思います。
※すべて雑誌掲載当時
茂木健一郎
1962年生まれ。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。著書多数。