ロシアが西側諸国に依存していること

このように、第三の罠にかかった西側諸国が、ロシアが戦争を継続できない状況を作り出すことは極めて困難である。では、ロシア制裁で何を得ることができるのであろうか。そのカギは「相互依存の罠は双方にかけられる」という点である。

西側諸国がロシアの資源に依存しているのと同様に、ロシアは西側諸国に対して、半導体や工作機械、自動車部品など、さまざまな工業製品の分野で依存している。

ソ連が崩壊した後のロシアは急速に市場経済に統合されることになったため、比較優位にある石炭や原油、天然ガスといったエネルギー資源を輸出することで国家財政を安定させる一方、ソ連時代には輸入することのできなかった西側諸国の工業製品などを輸入し、競争力のない国内産業に代わって輸入に依存する経済へと転換していった。

その結果、ソ連時代には何とか国内で供給できていた半導体や工作機械などは、より優れたものを輸入することに依存し、国内ではそうした製品を作ることはできなくなっている。

国際競争力がほぼゼロのロシアの半導体産業

とくに、ロシアの半導体産業は事実上存在しないというほど国際競争力がなく、半導体製造は西側諸国の企業にほぼすべて依存している。また航空機などの部品も西側諸国に依存しており、ロシア製のドローンで使われている電子部品などは、西側諸国の電化製品などから流用したものとの報道もある。制裁によって、武器の調達だけでなく部品の調達ができないことでロシア国内での兵器生産に影響を与え、「弾切れ」状態にするというのが制裁の一つの目的である。

鈴木一人『資源と経済の世界地図』(PHP研究所)

ロシアはすでに第一の相互依存の罠にかかっており、国内経済の構造が圧倒的に西側依存を前提したものになっている。そのため、第二の相互依存の罠で、プーチン体制が強権化し、政治体制がより権威主義的になりながらも、ロシアの経済構造が変わることはなく、継続して西側諸国に依存していた。

ゆえに、ロシアに対してもっとも効果的な経済制裁は、プーチンやオリガルヒの資産凍結でも、金融制裁でも、エネルギー資源の禁輸でもなく、半導体や工業製品の禁輸となる。しかもそれによってロシア経済全体に影響を与えるのではなく、ロシアが戦争継続に必要とする兵器や弾薬の製造に必要な物資を獲得できないようにするという、極めて限定的な効果に期待せざるを得ない。

このように、資源、エネルギーのみならず、特定の物資がこうした制裁の対象となることもあり、そうした物資は時に「戦略物資」とも呼ばれる。

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