天然ガスの完全な禁輸はできない

天然ガスについては、パイプラインによる供給は禁止し、ロシアからの調達を減らして制裁の効果を上げようとしている。だが、天然ガスは欧州にとって極めて重要なエネルギーであり、温室効果ガスの排出が石炭よりも少ないため、脱炭素を進めると同時に脱原発を進める国も多くある欧州にとって、不可欠なものである。そのため、ロシアからのパイプラインでの供給は止めつつも、LNGとしての輸入は認めざるを得なかった。

また、ロシアの原油や天然ガスを禁輸にすれば、それに代わる中東からの原油や天然ガスの奪い合いになり、市場価格が高騰する。それは国内におけるガソリン価格や電気料金の高騰につながることとなり、新型コロナによる行動制限がなくなった後の経済活性化によるインフレと相まって、国内経済に大きな負担となった。

第一、第二の相互依存の罠によってロシアへの依存度を高めた結果、第三の罠にかかった形で、原油や天然ガスの完全な禁輸ができないという制約のもとで経済制裁を実行しなければならなかったのである。EU各国は1年以上をかけてエネルギーの「脱ロシア化」を進めてきてはいるが、そのために被っている影響もまた、看過できないものであった。

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「脱ロシア」「脱炭素」「脱原発」という課題

しかし欧州は「脱ロシア」を進めると同時に、「脱原発」を進め、さらに「脱炭素」も追求している。この三つの「脱」は、同時に成立しないトリレンマである。ロシアへの依存から脱却し、脱炭素を追求するとなると、温室効果ガスを排出しない原発に頼らざるを得ない状態となる。

ロシアへの依存を減らしながら原発も稼働させないとなると、中東からのLNGの価格が高くなり、石炭に頼らざるを得なくなる。石炭を排除し、脱原発を進めるなら、ロシアからのエネルギー輸入を継続しなければならなくなる。このように、「脱ロシア」「脱炭素」「脱原発」は同時に成立しないトリレンマなのである。

日本では、侵攻開始から1年がたった2023年2月の『日本経済新聞』の世論調査で、「ロシアのウクライナ侵攻により生活に影響を受けている」と答えた人が64%に達している。「影響があったとしても制裁を続けるべきだ」と考える人が66%、「制裁をより強めるべきだ」と考える人は実に70%以上となっている。

だがその一方で、原油高の影響を受けて輸送費が高騰し、その価格が転嫁されたことも含む物価高に対しては、特に2023年に入ってからは連日「我慢の限界」といった社会の声も報道されており、政府も対応に頭を悩ませる状況に至った。