おそらく、口に出せない苦労もしただろうし、時には大きな失敗をして得意先の怒りを買い、出入り禁止になったことだってあったに違いない。それでも踏ん張り、最終的には地域有数の繁華街を抱える業務用営業チームの課長に成長していった。
実をいうと彼は、営業のプロを地でいくような管理職ではない。部下には「俺は素人だから」という弱さも見せて、周囲を「みんなでしっかり支えなければいけない」という気持ちにした。そんな課員たちを、彼もまたしっかりとサポートした。つまり、口八丁手八丁ではないが、朴訥な人柄は部下や得意先の信頼を勝ち取り、職責をまっとうしたのである。
ただ、最近の営業は、同じセクション内のコミュニケーションにとどまらず、製造とか物流とのチームプレーも求められるようになってきた。それぞれの立場で“お客様の笑顔”に向けて工夫をし、組織全体のクオリティを高めていくというやり方だ。
例えば、新商品を出すとする。長引く不況とシュリンクするビール市場を考えれば、これまで育ててきたブランドを生かすことが大切だ。そこには、すでにいくつもの広告やキャンペーンなどの成功事例がある。それを社内に「水平展開」するのも営業マンの役割といっていい。
そう考えると、営業は未経験だとしても、それまでのキャリアが無駄になることはない。社内外で培ってきたノウハウや見識を、それぞれの商品カテゴリーで生かせるはずだ。また、そうでなければ、これからは“一流の営業”とは呼ばれないだろう。
※すべて雑誌掲載当時
三宅占二
1948年、東京都生まれ。70年慶應義塾大学経済学部卒、麒麟麦酒入社。ハイネケン ジャパン副社長などを経て2010年より現職。