お金は際限なく増えるが1日は24時間しかない

私が資産運用に興味を持ったのは30代半ばで、当時勤めていた出版社を辞めようかと考えていたときのことです。会社を辞めてしまえば、給料を払ってくれる人がいなくることにはじめて気づいて、お金の管理を含めて、自分の人生を自分で「設計」しなければならないと考えるようになりました。

そのときは、金融市場の仕組みについてまったく知らなかったので、いろんな本を読み、株や債券、デリバティブ取引をやってみて、理論を検証しました。

本を読むときには、常にインプットとアウトプットを意識しています。両者のバランスがとれていないと、内容を脳にうまく定着させることができません。

たとえば、インプットをせずにアウトプットばかりしている人がいます。そんな人が書いたものは、内容が空っぽだなと感じることが多くあります。反対に、編集者時代には、ものすごい量の本を読んでいても、アウトプットが苦手な人にも会いました。世の中にはアウトプット過剰か、インプット過剰の人が多いのです。そうではなく、インプットしたものを上手にアウトプットして回転させることで、読書のコスパを上げられます。

資産運用でいうなら、本で勉強しただけで、実際にやってみなければ意味がありません。かといって、生半可な知識でハイリスクな取引をすれば、大やけどをするだけでしょう。

私の場合、新聞を読んで面白かったことはX(旧Twitter)に上げています。過去の投稿を検索すれば出典がわかるし、フォロワーからの反響で、「こういうことに興味があるんだ」とマーケティング効果も得られます。

私は物書きになってから、人的資本を一つのことに集中するという戦略をとっています。テレビ出演や講演をしていないこともあり、海外旅行を除けば、私の日常は、原稿を書いているか、本を読んでいるかのどちらかです。土日を含めて毎日、これを繰り返して飽きないのだから、この仕事が好きなんだと思います。

私の競争戦略の前提は、「世の中には自分より賢い人が無数にいる」です。でもこの人たちは、大学の教員だったり、官僚やエリートビジネスマンだったりして、ものすごく忙しい。それに対して私は、好きなことに時間資源のすべてを投じることができます。自分より2倍賢いライバルに勝とうと思ったら、3倍の時間資源を投じればいいのです。

三宅香帆さんの『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)がベストセラーになりましたが、みんなもっと本を読みたいと思っていて、時間資源に制約があることを身に染みて感じているのでしょう。

個人資産30兆円のイーロン・マスクを見てもわかるように、お金は際限なく増えていきますが、どんな大富豪でも1日は24時間しかありません。「タイパ」が流行語になりましたが、動画や映画は1.5倍速なら見られるかもしれませんが、4倍速では理解できないでしょう。

基本的な仕事がAIで代替できるようになれば、それがどんな分野であれ、特別な知識や技術を持ったスペシャリストしか生き残れない未来がやってくるでしょう。そのときもっとも効果的なのは、漫然といろんなことに手を出すのではなく、有限の時間資源を好きなこと、得意なことに集中的に投資することです。読書もそのような視点から考えれば、人的資本を大きくすることができるのではないでしょうか。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年8月30日号)の一部を再編集したものです。

(構成=向山 勇 撮影(書籍)=市来朋久)
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