飲み込む力を維持するために
最後に、東京医科歯科大学の戸原玄教授に、飲み込む力を維持するためにはどうしたらいいか聞いてみた。
「3つあるのですが、ひとつ目、1番簡単なのは、口を本気で開く。男性だとわかりやすいですが、人は飲み込むときに喉仏が上がります。口を開くときは顎を下げる。喉仏は顎と筋肉で繋がっていて、同じ筋肉が収縮しているんですよ。なので、口を本気で開くことが嚥下の筋トレになるのです。10秒程度、1日2~3回やるだけでも効果があると思います」
普通に食べたり話したりしているだけでは、口を本気で大きく開けることはまずない。これを意識して1日2~3回やるだけで嚥下力を維持し、高齢になっても美味しく楽しく食事ができるなら、やる価値は大きい。
「2つ目は、猫背の改善です。背中を丸めた猫背になると、肋骨と肋骨の間の筋肉が硬くなり、飲み込む力が低下することがあります。呼吸も深くできなくなるんです。なので、時々やってほしいのが、胸の前で手を組んで、上に捻って『う~ん』と伸びをすること。これをすると肋骨の間が伸びてくるんです」
仕事がひと段落するたびにやるのがオススメだ。
「3つ目が、猫背にならないために、太ももの裏の筋肉、ハムストリングスを伸ばす。ハムストリングスって、膝の裏から骨盤の後ろについている筋肉なのですが、この筋肉が伸びなくなると、膝が曲がらなくなるんです。膝が曲がらないことをかばって歩くと猫背になってしまいがちなので、ハムストリングスを伸ばすことを意識するとよいと思います」
太ももの裏の筋肉が嚥下に関わってくるとは驚きだ。こうしたことを意識して行うだけで、高齢になっても今と変わらずおいしく楽しく食事ができるのなら、やらない手はないだろう。
一方で、「飲みこむ力が落ちてきたな」と思ったら、誤嚥する前に、無理せずとろみ剤を導入することが大切だ。万が一のときも、「こういう商品があるから大丈夫」「あのサービスを使えば安心」と思える拠り所があることが、ストレスなく老いを重ねるために必要なことではないだろうか。