夢の中でも開発

当時、食品開発者歴11年、同社に入社2年目の町田は、ベビー用品や離乳食、ベビー向け飲料などを開発していた。対象は乳幼児がほとんどで、高齢者中心の介護用の食品は未経験。全く新しい挑戦だった。

「もうとにかく毎日ひたすら試作を繰り返しました。さまざまな原料メーカーさんに相談して、原料のことを詳しく聞きましたが、『できない』『わからない』と言われてしまって……。『もうこれ、自分でやるしかないな』と思って、たぶん100回以上いろいろな組み合わせを試して、ほぼ毎日ずっととろみ剤ばかり作っている時期があり、夢に出てくるほどになっていましたね……」

夢の中でも試作を繰り返していた。あるときは、薄めたときに狙った粘度が実現できても、逆に粘度を高めたときに寒天のように固まってしまい、がっかりして目が覚めた。もちろんその逆もあった。

試作を始めてから8カ月ほど経った頃、開発室で試作をしていた町田は、思わず「おお!」と声を漏らした。薄めてもシャビシャビにならず、粘度を高めても固まらない「とろっ」とした状態を実現できたからだ。

そのとき、開発室にいた助手で入社2年の綿貫優実は、町田の声に振り向き、町田に駆け寄った。そして、その手元にあるとろみがついた液体を見て、「すごいすごい!」と言って手を叩いて喜んだ。町田がとろみの夢から解放された日だった。

「何にでも」「すぐに」とろみがつけられる

開発に成功したとろみ剤は品質管理部門に送られ、実際に工場で製造される際の品質についてチェックを受ける。その後、評価部門で食品としての安全性について最終確認を受け、クリアするとパッケージデザインに入り、2021年8月10日「液体とろみ かけるだけ」(以下、液体とろみ)という商品名で販売が開始された。

画像=プレスリリースより

「液体とろみ」の使い方は、1包あたり14g入っている乳白色の液状を、とろみをつけたい食べ物や飲み物に混ぜるだけ。片栗粉のように料理にとろみをつけられるだけでなく、粉末ではとろみが付きにくい牛乳でもダマにならずにとろみがつけられ、炭酸飲料でもその場ですぐにとろみがつけられる。

とりわけ炭酸飲料は、粉末状のとろみ剤の場合、入れた瞬間から猛烈に泡立ってしまい、泡が落ち着くまで冷蔵庫で一晩ほど置いておく必要があったが、「液体とろみ」なら、飲みたいときにすぐに飲める。

実際、筆者も使ってみた。コップにコーラを注ぎ、数回スプーンで混ぜただけで全体にとろみがついた。飲んでみると、とろっとしているのにシュワシュワ感があり、新感覚のデザートのように面白い飲み心地だった。