「40歳でFIREしたら、やることがない」という人につい…

【名越】アナフィラキシーから自然に回復したんですか? 耐性ができていたということでしょうか。

【養老】それは、よくわからないけどね。ともかく助かった。人間も生存本能があるから、実際には、なかなかしぶといんだろうね。とりわけ、子どもはたくましいよ。

自己防衛能力が強いんだろうね。柳田國男の本を読んだら、こんな話がありました。子どもが、ある小さな祠の中を覗いたという話。

大人からは、「ご本尊を納めた箱の扉を絶対に開けるな」と厳しく言われていたので、その子は、かえって開けたくなってしまった。

ところが、扉を開けると、霊界に引きずり込まれそうな感覚に襲われた。

そのとき、鳥の鋭い鳴き声がして、ハッと我に返ったそうです。鳴き声は、きっと幻聴だったんだろうけど、自分の身を守るために、子どもには聞こえたんでしょう。

【名越】実は、僕にも軽く死にかけた経験があるんですよ。40代の頃なんですが、徹夜明けに友人と和歌山に行き、「シーカヤック」に乗って遊んでいたんです。

途中で雨に見舞われて、体が急に冷えたせいかちょっとショック状態のようになった。岸辺まで何百メートルとあったのでとりあえず岩壁下の小島に着けてもらった。

友人は、「救急車呼ばなきゃ」と覚悟していたみたいなんですが。でも、小島に着くと僕は自分でも意識しないうちに、するするっと一番大きな岩に跳び乗って猫のように丸くなって意識を失ったんです。実は、その岩は雨の中でも熱を保っていて、暖を取るのに最適だったんです。

岩の上で丸まっていたら、30分後には復活できました。

【養老】名越君にも、自己保存の本能があって、発動したんだ。

【名越】自分でも知らなかった自分がいて、勝手にそういう行動を取らせたんでしょう。そう考えると、僕も自分のことなんて、わかったつもりでも、いまだに全然わかっていない。人間は、知らないことが多すぎる。よくベンチャー経営者なんかが1億円貯まって、「40歳でFIREしたら、やることがない」とか言っているのを見るとつい、「あなたは賢いんやねえ」とつぶやいてしまいそうになるんです。

なんでそんなに予定されたような未来が見えるんでしょう。外の世界に目を向ければ、そりゃもう変化に次ぐ変化なのに。

第2回へ続く)

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年8月16日号)の一部を再編集したものです。

(構成=野澤正毅)
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