単利換算よりも複利換算の値は常に小さくなる

こうやって求めたrの値が、さっき言った5.372%だったわけ。ルート10なんて手計算できないから、もちろんエクセルでさっき計算しといたの。

整理しようかね。80万円が10年後に135万円になった投資の結果は、年数を考慮しない計算だと135÷80-1=68.75%のリターンとなる。

金融の作法である年率でそれを表現すれば、簡便法としての単利換算なら「÷10」をした年率6.875%であり、金融のデフォルトである複利換算ならルート10した年率5.372%となる。

ひとつ気付いてほしいのは、年率換算の値は常に単利換算(6.875%)よりも複利換算(5.372%)の方が値が小さくなることだ。

これは計算を行う際に複利という、単利に比べて増え方が速い方法を仮定したのだから当たり前のこと。より小さいパワーでも同じ135万円まで増える方法を計算の前提に置いたから、ということだね。

預金は事前に決まっているが、投資は最後にしか決まらない

さて、もうおわかりの通り、この3つは全部同じことを違う表現で言っているだけだよね。つまりリターンの数字を見る時には、それが年数を考慮しない生のリターンなのか、年率なのか。年率の場合には単利換算なのか複利換算なのか、といった前提条件の確認が欠かせない。

ネット上には投信の過去リターンを論じた個人のブログや動画が溢れているし、どこかの業者がやっている情報ポータルみたいなのも一見便利なんだけど、こうした数字を扱うにあたっての理解や配慮が明らかに足りないのが結構ある。

今福啓之『投資信託業界歴30年の父親が娘とその夫に伝える 資産形成の本音の話』(星海社新書)

期間も書いていなければ計算方法も書いてない。それでは何もわからないし、それで何かを比較しても間違いになる。

いやいや、勉強すればきっとどこかで目にするだろう単利と複利について、かなり突っ込んだ説明をしちゃったな。

ひとことで言えば「預金は事前に決まっているが、投資は最後にしか決まらない」っていう当たり前の話なんだよ。預金みたいに毎年固定の利率が付いて、それが元本に加わって複利で増えていくわけはなく、上に下にと変動しながら増えた結果を「後から」複利換算すると何パーセント相当だったかという話でしかない。

「今」が、どれくらい「前」より上がっているか――という極めてシンプルな話なのに、それを「複利の魔法」みたいな話で曖昧に論じるのがイケてないと常々思っててね。

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